「生活必需品として日常生活に食い込んでおり、なおかつその価格決定権は向こう(海外)にある、という意味で原油と共通します。これは日本に課された新しい足かせです」
ただ、諸要因で価格が上下に変動する原油とは異なり、デジタルサービスの単価は今後上がることはあっても下がることは考えにくい、と唐鎌さんは指摘する。
「デジタルサービスを提供する外資系企業で働く人々の給料は上昇傾向にあり、関連サービスの値上げは今後も不可避だと思われます」
経済産業省の部会では「2030年にはクラウドサービスの支払いは原油を超える」との試算も報告されている。22年開催の「第6回半導体・デジタル産業戦略検討会議」の資料。この中で、クラウドサービスなどを含むコンピュータサービスが生み出す赤字に関し、「現在のペースでいくと、2030年には約8兆円に拡大する」との試算が示され、これについて「原油輸入額を超える規模」と付記されている。
日本ではクラウドはアマゾンやマイクロソフト、ネット広告はグーグルやメタ、アプリストアではアップルとグーグルが大きなシェアを占める。汎用性の高いサービスが好まれるデジタル分野。市場を支配する米巨大テック企業への依存は強まる一方だ。そうなると、「米国の一人勝ち」は必然。逆に言えば、「日本だけが負けているわけではない」と考えている人も多いかもしれないが、じつは日本のデジタル赤字は世界でも突出している。唐鎌さんは言う。
「日本のデジタル赤字は経済協力開発機構(OECD)加盟国で最大で、実質的に世界最大のデジタル赤字国といえます」
22年のデジタル関連収支は米国が1134億ドルの黒字と頭抜けて大きい。だが、英国(775億ドル)やEU(713億ドル)もまとまった額の黒字を記録している。欧州勢の黒字の背景には何があるのか。唐鎌さんは、要因の一つに企業の本社機能の集中を挙げる。
「ロンドンやアムステルダムなどに巨大コンサルティング企業の本社機能が集中していることを踏まえれば、この点でも英国やEUのデジタル関連収支は黒字方向に引っ張られやすくなります」