変わったことと言えば、お風呂かな。僕はお風呂が大好きなんですけど、子どもたちはあまり湯船に浸かるのが好きじゃなかったんです。僕が一人で、悠々自適に楽しんでいたんです。でも、最近、たびたび子どもたちと一緒にお風呂に入るようになったら、今は子どもたちのほうがお風呂大好きになっちゃいまして、僕の楽しみの時間が奪われてしまいました。子どもが自分でお湯も作るようになってきたんですけど、たまに「これ、何入れた?」と引くくらいお湯が濁っているときがあって、毎回「イーーッ?」ってなっています(笑)。
――俳優としてのキャリアは20年を超え、若手から相談を受けることも増えてきた。
田中:10代の頃から役者をしていますが、自分が何をやりたいのかわからなかったり、本当にこの道を進んでいいのか迷うことも、もちろんありました。ドラマや映画に出させてもらえるようになってからも、ネットや週刊誌で、作品とは関係のない部分でめちゃくちゃ書かれているのを見ると、「何のために自分は俳優をしているんだろう」と考えたり、「同じくらい稼げるほかの仕事ってないのかな」とふと考えたり(笑)。でも、結局、僕にはほかにできることがないのかな、と。
やりたいようにやる
田中:今思えば、若いときの悩みって贅沢(ぜいたく)だったなと思います。もちろん、そのときは本気で悩んでいるし、本人にとっては大きなことなんです。でも年齢を重ねていって、若さを失う代わりに得るものや守るものができてきた年齢のほうが悩みがリアルだし、しんどいし、決断するのも覚悟がいるじゃないですか。
最近は若い子から相談を受けることもありますが、結局本人が納得できるかどうかでしょ。だから最後は「やりたいようにやりなよ」しか言葉が出てこなかったりする。自分もそうしてきたし、「失敗したって別にいいじゃないか」って。
演じるほど、答えはないと思うようになった。だからこそ自由でいられる。
失敗って何だろう
田中:そもそも、「失敗って何だろう?」と思うんです。仕事に関して、失敗というのがいまだにわからない。「うまく演じられなかったらどうしよう」とか「周りの反応が悪かったら嫌だな」という不安は確かにありますが、それは失敗なんだろうか、と。やるほど芝居には正解なんてないと思います。でも、答えがない中でも、自分なりに100%向き合うことはできると思うんです。それが周りの皆さんにどう受け入れてもらえるのかは、自分とは切り離された別次元の話なんですよね。
もちろん、自分なりに精一杯やってうまくできなかったら悔しいです。「何でできないんだろう」とか「もっとこうできたんじゃないかな」と落ち込むこともたくさんあります。でも、それを失敗と捉えるかどうかは自分次第だし、芝居に関してはぶれないと思います。信じているものが自分の中にはあるので、嫌なことを言われても「何か言ってんな」と、ぱっと気持ちを切り替えられるようになったのが、長く続けてこられた秘訣かもしれません。
(ライター・澤田憲)
※AERA 2022年5月2-9日合併号