じゃあなぜこの仕事をやっているのかというと、やっぱり「好きだから」なんです。作品づくりもそうだし、一緒に演じる仲間も、それを観てくださる方に届けることまで含めて。エンターテインメントは、絶対に必要な仕事だと思うので。
だから、せめて現場くらいはギスギスしないで楽しくありたいなと、昔から思っています。
――物語が進むにつれ、他人との「相性」について考えさせられる場面もある。演じる上でも、相性の良さや悪さを感じることはあるのか。
田中:ありますよ! 「ほぼ相性で決まるのでは?」と思うぐらい(笑)。相性って言葉はずるいよなと思うけど、確かに理屈じゃない部分はあると思います。
作品や役柄にも相性はあります。せりふがすらすら入るときもあれば、難しいことは言っていないのに「どうも覚えられない」と感じることもあります。僕の場合は、ヤンキーとか極道とか、バイオレンス系の役は少し苦手かも。暴力的なものが自分の中にないので、もうどうしたらいいかわからない(笑)。いつもなら役に応じて、演技の設計図みたいなものを頭の中で作るんです。本番ではあえてそれを全部忘れてやるというのが理想ですが、バイオレンスな役は演技プランができないから、ただ必死な奴になってしまう(笑)。それは俳優としてどうなんだろうとか、こうすればもっと怖く見えるかなぁとか、普段は考えないようなことまで考えるようになってくるので、相性が悪いんだなあと思います(笑)。
家族との時間が好き
――今作では「家族の在り方」が一つのテーマだが、最近になって家族と過ごす時間にも変化があったという。
田中:ワーク・ライフ・バランスと僕が言うと、「考えてないだろう!」って家族に怒られそうですけど、でも自分と家族の時間のバランスをどうとるかっていうのは、皆さん悩むところなんじゃないですかね。
僕の場合は、昨年から、家にいる時間が増えたんです。それまでは朝、子どもたちが起きる前に家を出て、夜寝た後に帰ってくるというのが当たり前だったし、せりふを覚えないといけないから、休みの日も遊んであげる時間がとれなかった。それが変わって、家族と一緒にご飯を食べられるようになりました。自分でも驚いたのですが、「家族といる時間がすごく好きなんだな、おれ」と、今更ながら気づいたんです。それはいい発見でしたね。