無意識のうちに「家事・育児は女性がやるもの」「力仕事は男性がやるもの」と決めつけてしまう。これは「アンコンシャス・バイアス」と呼ばれ、時に自他の可能性を狭めることにもなる。
北海道大学の黒岩麻里教授が自著『「Y」の悲劇 男たちが直面するY染色体消滅の真実』の中で紹介した、世の中に蔓延する「根拠のない差別」の正体とそれに気付くことの重要性を、本書より、一部抜粋、再編してお届けする。
ジェンダー・ギャップと脳
近年「女性脳」「男性脳」という言葉が話題になり、脳に性差があるかどうかが議論されることがたびたびありましたが、脳の性差については、今もなお研究が続けられ、議論は続いています。もって生まれた染色体や遺伝子、ホルモン、さらに環境により脳に性差が生みだされることは間違いありません。
しかし、その性差を上回るほどの個人差があるという、大変重要な発見もなされています。
また、社会や教育などの環境が、脳の発達の性差に影響することも報告されています。ジェンダー指数と脳の構造の関連を比較した研究を紹介していきましょう。
京都大学医学部附属病院をはじめとする国際研究グループは、29カ国にわたる共同研究により、18-40歳までの健康な男性3798人と女性4078人について脳のMRI画像解析を行いました。
そして、ジェンダー・ギャップ指数およびジェンダー不平等指数から算出した性別間の不平等の指標を、実験参加者の国ごとに算出し、脳構造との関連を解析しました。
その結果、社会的な性差、つまり男女間の不平等が大きい国ほど、右大脳半球の表面で神経細胞が集まっている大脳皮質の厚みが、男性より女性で薄い傾向にあることがわかったのです。
逆に、男女間の不平等がない国の実験参加者では、大脳皮質の厚さに男女差は見られませんでした。
さらに、この研究での日本の不平等指数は29カ国中12位で、上位を占めた北欧諸国に比べると、皮質の厚さの男女差が大きかったのです。
大脳皮質は、知覚、随意運動、思考、推理、記憶など、脳のあらゆる高次機能を司る場所です。このような重要な働きをもつ脳の性差は、生まれつきもつ遺伝子や染色体などよりも、生まれた後の生育環境による影響が大きいことをこの研究は示しています。