黒岩麻里『「Y」の悲劇 男たちが直面するY染色体消滅の真実』(朝日新聞出版)
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 私たちの脳には日々、膨大な情報が入ってきますので、素早く処理する必要があります。そのため、経験や知識をもとに「こうであろう」という「近道」を使って日常生活を送っています。ただし、「近道」は便利ですが、しばしば不正確な判断となってしまいます。

 身近なアンコンシャス・バイアスの例は挙げるときりがないのですが、例えば「家事・育児は女性がやるもの」「力仕事は男性がやるもの」「女性は気がきく」「男性は頼り甲斐がある」などなどです。

 私の実体験もたくさんあります。例えば、大学の研究室に、とある試薬メーカーの営業担当者が訪ねてきた時のことです。私を見るなり「秘書の方ですか?」といわれました。その方にとって、大学の理系の研究室の教授は当然男性であり、「黒岩教授」はその苗字からもおそらくゴツくて貫禄のある男性教授を想像したに違いありません。

 そして、女性が教授であるとは夢にも思わなかったのでしょう。

 アンコンシャス・バイアスは自然に培われていくものなので、アンコンシャス・バイアスが生まれること自体を避けることはできないのですが、気づかずにいると、周りの人に悪影響を及ぼしたり、さらには自分自身の選択肢や可能性をも狭めてしまうといった弊害が出てくるかもしれません。

 自分もアンコンシャス・バイアスをもっていると「気づく」ことが重要なのです。

 最近ではアンコンシャス・バイアス研修が行われる企業が増えるなど、社会的にも注目を集めています。ジェンダーにとらわれず、個人の能力や特性が十分に発揮される社会を目指して、国や行政機関、民間企業や地方自治体などでもアンコンシャス・バイアスの気づきへの取り組みが行われています。

 実際に、大学の学長や理事などの役員を対象とした、ジェンダーバイアスについての啓蒙セミナーや勉強会を行ってくれないかと、複数の大学から依頼を受けたことがあります。私の専門はY染色体や遺伝子を対象とした科学研究ですので丁重にお断りするのですが、組織の執行部で活躍するような重要なポジションに就く世代にとって、長年培われたバイアスに気づくことは大変重要なことではないでしょうか。

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男性の女性化は本当?