坂口幸弘さんと赤田ちづるさん
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 多死社会・高齢社会の今、「グリーフケア」が注目されている。グリーフとは、日本語で「悲嘆」という意味。大切な人を亡くした際、人は大きな悲しみや喪失感を抱える。

 長年にわたりグリーフケアの研究と実践を行ってきた第一人者・坂口幸弘さんと赤田ちづるさんに、悲しみや喪失感と自分なりに向き合い、やがて再び歩き出すためのヒントを聞いた。

 坂口さん、赤田さんの著『もう会えない人を思う夜に ―大切な人と死別したあなたに伝えたいグリーフケア28のこと−』(ディスカヴァー)から一部を抜粋、再編集し紹介する。

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 これからどう生きていけばいいのだろう。

 大切な人を亡くしたとき、まるで暗闇の中にひとりでいるようで、どこに向かえばよいのかわからないと感じることがあります。

 3年前に母親をくも膜下出血で亡くした30代の女性は、「深い海の底で迷子になったかのようでした」と当時の心境を振り返ってくれました。

 母が一番の理解者だったと話すこの女性は、母親を失い、だれも私の気持ちをわかってくれず、いつもひとりぼっちだと感じていたといいます。

 そして、「こんなにつらい思いをしているのは私だけだろう」とずっと思っていたそうです。

 身近な人の死に出会った経験は過去に何度かあったとしても、亡き人との関係性や死の状況などによって、受ける影響は大きく異なります。かつて体験したこともないほどの喪失感に押しつぶされそうで、このまま生きていてもしかたがないと思うことさえあります。

 認知症の母親を5年間にわたって在宅にて介護し、看取った60代の女性は、こう話してくれました。

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何もできないまま一日が終わってしまう