この本のモデルは私です。この本の内容はずっと生きにくいなあと感じていた主人公が一番追い込まれていた時に聞こえてきた「声」を頼りに、自分の生きにくさの原因が何だったのかを知る物語です。去年、私の仕事が無くなった時に実際に経験したことを下地にして作品を描きました。
主人公が生きにくかった理由は自分で母に支配されていたことに気づいてなかったということなんです。
少し前、世間では主人公のような状況を「母娘問題」と呼んでブームみたいになりました。
最初に母娘問題のことを知った時「あれ? ウチの状況に似てる?」と感じました。だけども、「自分には関係ない」と思っていました。他の家のお母さんがどんなふうに子供と接してるのか、どういうことを言ってるのか知らなかったし、私にとっては「お母さん」という存在は母ひとりだから、「お母さん」は、どの家もこういうものなのだろうと思っていたからです。
だから、自分の生きにくさは私自身の性格に欠陥があるからなのだと、ずっと長い間自分を責め続けていました。
でも、そうじゃなくて母にマイナス思考を教育された結果生きにくいのだと知った時は「私の人生を返してくれ」と腹がたちました。だけども40年以上生きてきて今更母を恨んでもしょうがないので、生きてるうちにこのことに気づけたのだから、これからは自分の人生を生きていこうと決めました。
私はこの作品を描くことで「これで母の支配からは脱出できた」と思ったんです。そしたら全然できてなかったことに最近気づきました。いつのまにか「それでも私は母の人生を生きなきゃ」に変換されていたのです。これに気づいた時恐怖を感じました。母の力ってなんて強力なのでしょう!
周りの人に「こういう本を作っている」という話をしてきたら、「実は私もそうなんです」とか「知り合いがそうなんです」という人が何人も出てきました。
その人たちの話を聞いていたら自分とそっくり同じ悩みを抱えて生きてきたというので「自分だけじゃなかったんだ」という安心感と、「こんなに親との問題で悩んでる人がいるってどういうこと? 家族って親って一体なんなの?」という新たな疑問と……いろんな気持ちが湧いてきました。
そして周りの人に「自分のことを作品にしたらスッキリして母の支配から抜け出せると思ったのにダメだったんだよ」と話したら「当たり前だよ! そんなことくらいで解決できるわけないじゃない!」と言われました。特に私のように四十五年間も母に支配されてきたことに気づかなかった人間は、相当根深い力関係ができてるので、長い時間をかけてリハビリをしていかないと抜け出すことはできないようです。
今の私の状況は、母に支配されていたから生きにくかった。四十五年も気づかないでいたから根深い力関係ができてる。時間をかけて解決していくしかない。ということまでわかりました。
そしてリハビリとして、自分の中に今まで存在しなかった「自分を助けてくれる存在」を作ることをしてます。
よく漫画で窮地に立たされた時に天使と悪魔が出てきてどっちにするか惑わせるような表現が出てきますが、私の場合は四十五年間悪魔しか住んでない状況でした。
母がマイナス思考教育でそう仕向けていたのです。
なのでいつも何かを選択しなければならない時に悪魔の言葉しか出てこないので「どうせ何やったってダメに決まってるよ」しか選択できなかったんです。それに気づいた時「そうだったんだ。だから私は何をやってもうまくいかなかったんだ」ってわかってすごーく楽になりました。
今は天使の存在を必死に見つけ出してるところです。私の中にも天使がいるんだ! ということに気づいた時、本当に驚きました。私の中にもきちんと自分を助けてくれる存在がいるんだ。作ってもいいんだ。私も普通の人みたいに「うれしい、楽しい、喜んでる」感情を出してもいいんだ!
これからはリハビリを通して自分のプラスの感情を素直に出せる人間になれたらいいなと思ってます。
この本は母のことに気づいた時に何かに取り憑かれたように一気に描いた作品です。こういう内容を自分が描くなんてその時まで全く考えていませんでした。だからこうして本という形になって、たくさんの人に読んでもらえることにドキドキしてます。
母と娘の問題だけとして読まれるのではなく、親は子にとってどういう存在なのか? 子は親にとってどういう存在なのか? ということを、考えるひとつのキッカケとして読んでもらえたらいいなと思います。