太田が政治家に向き合う態度は、ほかのキャスターやタレントとは微妙に違う感じがする。何が違うかというと、圧倒的な「真摯さ」がある。
多くの人は、自分自身が何らかの政治的な立場にあって、そこから意見を発したり、質問をぶつけたりする。中立的な質問をしているようでも、本人の言いたいこと、言わせたいことが言外ににじみ出ていたりする。
もっとひどい場合には、意図的な揚げ足取りを仕掛けるような人もいる。相手をわざと怒らせて失言を誘ったり、感情的にさせることを目的にしていたりするような人も見受けられる。
一方、太田にはその種の邪な心がほとんど感じられない。彼は常に自分の頭で考えて、自分が知りたいことを聞く。簡単そうに見えて、これをやり続けるのが一番難しい。
それはテレビ局などのマスメディアが標榜するところの「中立」とも違う。マスメディアにおける「中立」というのは、単に世間の空気の一番真ん中のところに立っている、というだけだ。
太田は、1人の市民として、自分なりに本を読み、議論を交わし、調べたり考えたりしている。それに基づいて相手と向き合い、率直な思いをぶつけていく。
最初に出た選挙特番で彼が批判されたのは、単なる「手法」の問題だろう。タレントは番組の内容や性質に応じて、同じことを言う場合でも、言い方や演じ方を変えていく。太田は最初の選挙特番のときには、そこには不似合いなバラエティ番組の手法を持ち込んでしまった。それは多くの視聴者が求めているものとはかけ離れていたため、バッシングを受けることになった。
でも、それはあくまでも表面上の話。彼の流儀や信念そのものはそのときから変わっていない。手法を変えることで、二回目以降は炎上することもなくなったし、じわじわと世間の評価も高まっているような気がする。
ネット上で「正義」と「正義」が激しくぶつかり合い、不毛な争いが絶えない今だからこそ、どこまでも知的誠実さを貫く太田が輝いて見えた。(お笑い評論家・ラリー遠田)