天皇、皇后両陛下が主催して、10月30日に開かれた「秋の園遊会」。両陛下や皇族方が、数多くの著名人たちと親しく言葉を交わす園遊会の「あのとき」を振り返る(この記事は「AERA dot.」に2023年5月14日に掲載された記事の再配信です。年齢や肩書などは当時のもの)。
【写真】あれ?形が違う?宮内庁が招待者に渡した少し特殊な雨傘はこちら
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雨のなか執り行われた令和初の園遊会は、小規模ながら温かみのあるものだった。気になるのは、天皇や皇族方、招待者が手に持つ雨傘だ。傘を納めた前原光榮商店の代表取締役が語る秘話からは、皇室の意外な素顔が垣間見える。
「傘を、よろしかったらお差しになって」
天皇陛下が左手を高く上げたしぐさは、傘を差すジェスチャーのようにも見える。
激しい雨が降る中、傘を差さずにお辞儀をする歌舞伎俳優で人間国宝の片岡仁左衛門さん(79)を、陛下はそっと気遣った。
土砂降りの雨ではあったが、陛下や雅子さまの笑い声が明るい雰囲気をつくった。
招待者に宮内庁が手渡したのは、黒い雨傘だ。
黒い雨傘と出席者の黒いモーニングのなかで女性皇族がさす明るい雨傘は、その場を華やかにした。
淡い水浅葱色の和服をお召しの雅子さまと秋篠宮家の紀子さまと次女、佳子さまが手に差すのは、やわらかなベージュ色の雨傘である。
実は、宮内庁で用いられる傘は、すこし特別な雨傘である。
雅子さまや紀子さま、佳子さまなど皇族方がお使いの雨傘を制作したのは、東京都台東区に会社を構える前原光榮商店。同社の職人によって作られた品だ。
皇室との縁は、1963(昭和38)年。皇太子妃であった美智子さまの傘の手元の修理を手がけたときであった。手元の素材は象牙を用いたという。
同社代表取締役の前原慎史さんがこう話す。
「その後、昭和天皇へ黒い雨傘を納める機会がありました。それ以来、うちの職人が手がけた傘を皇室でお使いいただくようになりました」
雅子さまも愛用するひとりだ。前原さんによれば、エリザベス前女王の国葬に出席するために渡英した際にもお持ちだったという。
ただし園遊会で雅子さまがお使いだったのは、手元が革で作られた一点物の品だ。ライトベージュの優しい色合いの布が使われた。
皇室は野外での公務も多い。
「雅子さまの傘の骨も風や雨への強度を持つ16本骨です。骨の素材にカーボンファイバーを使っているため重量が軽く、ご負担も軽減できると思います」(前原さん)