焼き上がったコッペパン=高久製パン提供

加工賃を上げているが…

「最近は(パン1個あたりの)加工賃を年『数円単位』で、かなり上げています」と、同給食会の大石敏靖事務局長兼物資課長は説明する。

 しかし、給食のパン代は保護者が支払う「給食費」で賄われており、学校給食会には「安全な給食をできるだけ安価に提供する役割がある」(大石さん)という。

 全パン連が求めてきた「製造実態に即した加工賃の値上げ」との間には大きなギャップがあるのが実情だ。全パン連青年部総連盟の給食委員会で委員長も務める高久さんは、こう話す。

「コッペパンであれば、1個80円、90円、100円近い売り渡し価格を実現しなければ、パン業者の廃業や撤退が続く現状は変わらない。ある程度の金額をいただかないと、事業を継続するのは難しい」

神奈川県学校給食会物資課の田中恵子課長補佐(左)と大石敏靖事務局長兼物資課長=大和市、米倉昭仁撮影

食材は高騰、給食無償化で「入札」制に

 また、単にパンを値上げするだけでは、「学校でのパンの提供回数が減るのは目に見えている」という。

 文部科学省によると、昨年度の公立校の給食費の全国平均月額は小学校で4688円、中学校は5367円。1食にかけられる費用はたった250円前後だ。それをさまざまな食材の高騰が圧迫している。

 全国の公立小中学校の給食費について、約3割(文科省調査/23年9月時点)の自治体が無償化しているが、高久さんはこの動きもパン業者の撤退につながると懸念する。

 財政が苦しい自治体は「1円でも10銭でも安い給食を作ろうとする可能性がある」(高久さん)。実際、給食を無償化した自治体がパンの納入を指定業者から毎月の入札に切り替える例もあるという。パンは買いたたかれ、業者はますます苦境にあえぐ。

大きなオーブンにコッペパンの生地を入れて焼き上げる=高久製パン提供

給食費の仕組みを根本から見直すべき

「給食パン業者の苦境は、保護者が負担する『給食費』の仕組みを根本的に変えないと解消しないでしょう」

 こう話すのは、千葉工業大学工学部教育センターの福嶋尚子准教授だ。

 給食無償化についても、「単に保護者負担を公費負担に付け替えただけのところが多い。コスト重視で、『よりよい給食を提供する』という意識が欠けている」(福嶋准教授、以下同)と、厳しい目を向ける。

 給食費の無償化は、「保護者に対する支援」ではなく、子どもが健全に成長する権利、「成長発達権」に基づいて行われるべきだという。成長発達権は日本が1994年に批准した「子どもの権利条約」の原則の一つだ。

「市区町村の財政力には大きな差がある。全国の問題ですから、自治体に国が補助金を出して、給食を支える仕組みをつくる必要があると思います」

 給食は日本に根づいた文化だ。揚げパン、ソフトめん、わかめごはん、鯨肉(げいにく)の竜田揚げ、冷凍みかん。さまざまなメニューと味わいが、子どものころの思い出と深く結びついている。そんな給食の土台を見直す時期にきている。

かつて学校給食の主食といえばパンだった=神奈川県大和市、米倉昭仁撮影

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)

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