5年前の2019年10月26日に登頂が永遠に禁止となったことを示す看板。登山道は「傷痕」とされている(写真:柳沢有紀夫)

 そんなウルルを眺めるツアーの中で、特に「このあたりらしい」と言えるのが「キャメルライド」、つまりラクダの背に乗りながらのものだ。じつはオーストラリアには野生化したラクダが150万~200万頭いると言われている。もちろんもとからここにいたものではない。内陸部で金やオパールなどの鉱物資源が発見され、いわゆる「ゴールドラッシュ」が起こり、また縦断鉄道の建設が始まった19世紀後半に、同じ大英帝国領であったアフガニスタンなどから「物資運搬用」に連れてこられたのだが、自動車の普及とともに不要となり放逐されたものが増えたのだ。

 準砂漠気候の広大な大地でラクダに1時間前後乗るのは、貴重な経験になるはずだ。これもまた未明に集合して日の出を迎えるツアーや、日の入りを楽しむものが人気だ。

登頂禁止までの道のり

 このように「登りたい人のための場所」から、「すべてのツーリストを受け入れるリゾート」へと生まれ変わったウルル。だが一朝一夕でことがなせたわけではない。様々なアクティビティーは何年も前から開発されてきた。

 たとえば「キャメルライドツアー」がスタートしたのは登頂全面禁止の8年前。ライトアップの「フィールド・オブ・ライト」は当初2016年限定の予定だったが、好評につき延長。のちにディナー付きのアクティビティーへと進化させた。さらに「BBQサンセットディナーと星空観測」は1997年からリゾートの裏手で行われてきたが、12年には許可を得て「ウルルが見える場所」に移動。さらに24年7月からはなんとウルルからわずか200メートルの至近距離に。ウルルが見えるだけではなく一体感を楽しめるまでに進化させてきた。

 翻って、日本の富士山は登山口が開いている時期のオーバーツーリズムや事故が大きな問題になっていて、今年は山梨県側(吉田ルート)で午後4時~翌日午前3時の時間帯に登下山道を閉鎖し、ゲート通過者から2千円の通行料を取るなど規制を始めた。

 長期計画を立てて試行錯誤しながら「登頂に頼らない観光地」に進化したウルルに、持続可能な観光のヒントが隠されているかもしれない。

(海外書き人クラブ・柳沢有紀夫)

AERA 2024年10月28日号

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