世界遺産「ウルル」の雄姿。世界中の旅好きから「一生に一度は訪れてみたい」と思われている点も富士山と似ている(写真:柳沢有紀夫)
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 登頂を禁止しても観光地として生き残ったオーストラリアの世界遺産「ウルル」。その取り組みは、富士山など日本のオーバーツーリズム対策のヒントになるかもしれない。AERA 2024年10月28日号より。

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 オーストラリア大陸のほぼ中央部に位置する「ウルル」。かつては「エアーズロック」と称されたが、現在では先住民によるこの呼称が正式名称だ。

 標高は863メートルで、ふもとからの高さは348メートル。周囲は9.4キロメートル。大きさも形も異なるが、日本の富士山と似ているところがいくつかある。一つは遠くからでも見つけられる威容を誇る「独立峰」である点(ウルルは「山」ではなく、一つの「岩」だが)。また富士山が信仰の対象であるのと同様、ウルルは先住民の聖地である点。さらにどちらも「世界遺産」に登録されている。

 だが両者には大きな違いがある。富士山は登山がインバウンド客にも人気である半面、オーバーツーリズムに悩まされている。一方、ウルルは5年前に「登頂禁止」となった。その理由は「生態系の破壊」などもあったが、なによりこの地を所有するアナングピープル(先住民アボリジナルピープルの集団の一つ。「アボリジニ」という呼称は差別的だとして使われなくなっている)が登頂を良しとしなかったからである。

光と音のショーに進化

 彼らにとってウルルは「聖地」で、下から崇(あが)める対象であって登る場所ではない。ただ、アナングピープルにとっても観光は重要な収入源で、仕方なく登頂を容認していた。それでもいつかはウルルの本来の接し方である「下から眺め、崇める」形に戻したいというのが彼らの積年の願いであった。

 だが「登頂」という最大のアクティビティーを突然禁止にしたら、当然観光客は激減する。そうならないために登頂以外のアクティビティーを「事前に」充実させておく必要がある。そうして「ウルルに来ても登らない観光客の割合」が8割を超えてから、2年の猶予期間を経て「登頂全面禁止」とした。ただ感情の赴くままに禁止したのではなく、計画的に移行したのである。

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登頂以外にどんなアクティビティーを用意したのか