【カウンセラー、ソーシャルワーク学者】市川ヴィヴェカさん(38):Ichikawa Viveka/カナダ在住。英語と日本語の多文化多言語セラピー・カウンセリングとソーシャルワーク研究を行う。日本人の母とイギリス人の父を持つ(撮影/写真映像部・和仁貢介)
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「日本における複数の民族・人種等のルーツがある人々のアンケート調査」が7月に発表され、ミックスルーツに対するマイクロアグレッション(無意識の差別や思い込み)が浮き彫りになった。背景には何があるのか。調査をした下地ローレンス吉孝さんと、市川ヴィヴェカさんが語り合った。AERA 2024年10月28日号より。

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下地:ミックスルーツの人に対しては、興味があれば許可なく体に触れてもいいし、何を言ってもいいと思われている傾向も浮かび上がりました。その言動によってその人が精神的ダメージを受けても構わないと、まるでモノや動物のように扱う人がとても多い状況です。例えば、今回の調査でもアフリカ系黒人の方の約8割が、勝手に髪の毛に触られる経験をしていました。

市川:髪の毛を勝手に触ることは人権侵害だという意識が浸透していませんし、ミックスルーツの親の国籍や、どうやって出会ったかを聞くこともマイクロアグレッションなんですよね。

 電車で隣に座った人や、カフェでたまたま並んだ人から髪を触られたり、プライバシーに関することを聞かれたりする。それは恐怖ですよね。やっている方は1回でも、受けている側は1日に何回もそういうことが起こり、それが10年、20年と続く。カウンセリングをしていると分かるのですが、その傷つきのダメージは侮れません。

差別が野放しになっている、法律やルール作って対策を

下地:この差別やマイクロアグレッションの背景は、日本の場合、日本人か日本人じゃないか、という峻別がとても強いことがあると思っています。ミックスルーツは「日本人ではない存在」として扱われてしまい、自分と同じではないと考える。それが過度に羨望されたり、過度に劣った存在として、モノ化、動物化しているのだと思います。

市川:私は「混血」から「ハーフ」と呼び方が変わる過渡期に子ども時代を過ごしたんです。「ハーフ」になって、ちょっとかっこいい存在のようになった。ただ、差別に見えない差別が出てきたと思います。差別だけならダメと言いやすいけれど、シュガーコーティング、砂糖でくるまれている差別なので声をあげにくいんですよね。

下地:じゃあミックスルーツの差別だけを是正したら解決するかというとそうじゃないですよね。人種的な問題の上に、性差別やルッキズム、セクシュアルマイノリティー、障害などの差別が本人の上に交差していくわけです。

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いろんな差別が野放しになっている