前野隆司さん(まえの・たかし)/慶応大学大学院・武蔵野大学教授。著書に『幸せに働くための30の習慣』『幸福学の先生に、聞きづらいことぜんぶ聞く』(写真:本人提供)

 前野さんは、「そもそも『もっとお金があれば幸せなのに』と思っているうちは幸せになれません」と言い切る。

「年収400万円であれ1千万円であれ、自分のライフプランニングがきちんとできていて、『お金はもう十分。自分はこの年収で生涯安定して生きていける』と思っている人は幸福度が高い傾向にあります。逆に『もっとお金があればいいのに』という考えを手放せない人は、ボーナスが出たり年収が10万円増えたりしたときには『一瞬のハピネス(嬉しいという感情)』は得られますが、長期的に心が良い状態(ウェルビーイング)にある『長続きする幸せ』は、いつまでたってもやって来ないんです」

 なぜ、そうなってしまうのか。

「幸福の対象には、『地位財』によるものと、『非地位財』によるものがあります。地位財による幸せとは、おカネ、モノ、地位など他人との比較に勝って満足が得られるもの。こちらの幸せは短期的なものにとどまり、長続きしません。地位財で比較して負けたらそれはそれで悔しくてうらやましいばかりで不幸せ。どっちにしろ『他人と比較してしまうこと』は、私たちにさほど幸せはもたらしません。一方の非地位財は、健康、自主性、自由、愛情など、他人と比較しなくても満足感が得られるもの。これらを得ることによる幸せは、長続きするんです」

 そしてこのことは、いま持っているお金は「どのように使えば」幸せになれるのか、にもつながってくると前野さんは指摘する。

「モノ(地位財)を買うよりも、『体験(非地位財)』を買う方が幸福度は長く持続するという研究結果もあるんです。1万円で何かモノを買うよりも、1万円でたとえば何らかのチャレンジ体験をすることの方が、心に幸福感が持続する。つまりモノよりも『心の思い出になるような経験』の方が、幸せは増すんです」

 もう一つのポイントは、「利他的なお金の使い方」だ。お金は自分のために使うよりも、他人のために使った方が幸せという研究結果があるという。

他人のために使う

「世の『お金持ち』の中には、お金を自分のためばかりに使って、贅沢したり自慢したりという人も多いですよね。でも、これをやっている間は、幸せにはならない。寄付でもいいし、儲けるための投資ではなく『彼らはいいビジネスをしているから応援したい』という意味での投資をするのもいい。他人のために使って、『世の中の役に立てて良かったな』と思えると、セロトニンやオキシトシンといった幸福感につながる脳内物質も出る。お金持ちが幸せになるには、他人のためにお金を使う。そこに尽きると思います」

(編集部・小長光哲郎)

AERA 2024年10月28日号より抜粋

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