お金があっても幸せになれるとは限らない(撮影/写真映像部・佐藤創紀)
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 もっとお金があれば、もっと幸せになれるのに──。メディアをにぎわす「富裕層」たちの暮らしぶりを見てうらやみ、何となく落ち込んでしまう。そんな人も多いかもしれない。しかし本当に、お金がたくさんあればそのぶん、幸せになれるのだろうか。AERA2024年10月28日号より。

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「私たちは、『お金=幸せ』という間違った答えを導き出してしまいがちです」

 こう話すのは、慶応大学大学院SDM研究科・武蔵野大学ウェルビーイング学部教授で「幸福学」の第一人者、前野隆司さん(62)だ。

だんだん頭打ち

「もちろん、憲法で保障されている『健康で文化的な最低限度の生活』を営むためのお金は必要です。お金持ちでかつ、幸せいっぱいの人もいるでしょう。ただ、『お金持ちになればなるほど必ず、すごく幸せになるのか』というと、それは違うと思います」

 ノーベル経済学賞を受賞したプリンストン大学のダニエル・カーネマン名誉教授による「お金と幸福度の関係」についての研究がある。

 収入を横軸に、幸福度を縦軸にグラフをとると、収入増につれて幸福度が青天井に伸びていくのではなく、収入が増えてもだんだんと幸福度には影響しなくなっていき、その先は幸福度が頭打ちになるという線を描く。経済学用語のいわゆる「限界効用逓減(ある財の消費量の増加に伴って、限界効用はしだいに減少する)の法則」がそこにも見られるというのだ。なぜなのか。

「たとえば、貧しくて冷蔵庫も買えなくて困っている人が冷蔵庫を買うと、幸せになりますよね。つまり欠乏状態からの脱出というものは幸せにつながるでしょう。多くの人は大なり小なりこのような『これが買えて助かった』という脱出経験は持っているので、ついそのまま延長する発想で『この先も豊かになればなるほどものすごく幸せになる』と考えてしまう。でもそれは人間の脳が持ってしまうイリュージョン(幻想)であり、間違いです。貧しさからの脱出と、ある程度豊かになってからの『ぜいたく消費』では、『幸せへの寄与率』がまったく違うんです」

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『もっとお金があれば』と思っているうちは幸せになれない