先の日野教授は、まずは「独立した外部窓口の設置が必要」と提唱する。
公益通報には三つの通報先がある。(1)勤務先の内部通報窓口に通報する「1号通報」、(2)権限を有する行政機関に通報する「2号通報」、(3)その他の第三者(報道機関、消費者団体等)に通報する「3号通報」──の三つだ。日野教授は、「1号通報」に弁護士などからなる独立した中立公正な外部窓口を置くことが求められるという。こうして気兼ねなく声を出せる制度にし、通報者の心理的負担を下げることが第一歩だ、と。
「その上で、通報に対する意識を変えていくことが重要です。それには、経営トップのメッセージが重要になってきます。『些細なことでも、気づいたら安心して声を出してください』。こうした強いメッセージを経営トップが発することが必要です。この一言で組織の空気も変わり、風通しも良くなり、通報しやすくなります」
不正の隠蔽は、短期間的には組織に利益をもたらすかもしれない。しかし長期的には、不正が発覚した時に組織の基盤が揺らぐことになり、企業や組織のレピュテーションリスク(評判を落とす恐れ)にもなり得る。そのことを経営トップは理解しなければいけない。大切なのは、誰が通報したかではなく、何を通報されたかだと日野教授は言う。
「公益通報は単なる誹謗中傷ではなく、勇気を出して告発した人からの声です。耳が痛い声であっても、その声を真摯に聞き、組織にとって大事な改善の『種』になると思えるか思えないか、組織の真価が問われます」
前出の中村弁護士は、「公益通報者保護法に通報者捜しや通報を理由にした異動や解雇などには罰則を設けることが重要」と説く。
日本の企業や組織で不正がなくならないのは、利益になれば多少の不正はやっても構わないという「企業文化」があると中村弁護士は指摘する。
「企業文化は、変えたくてもなかなか変えることはできません。そうであるなら、法律で通報を理由にした異動や解雇、通報者捜しに罰則を設けることが重要。罰則規定があることで、抑止力となって働きます」
消費者庁は今年5月、制度の見直しに向けた有識者検討会を設置した。「通報者捜し」に刑事罰を導入すべきかどうかなど、制度の見直しを検討。年内に意見をまとめる予定だ。
おかしいと思ったことはおかしいと言える。正直者が報われる。そんな社会を目指さなければいけない。(編集部・野村昌二)
※AERA 2024年10月21日号より抜粋