声を上げづらい状況はデータからもうかがえる。消費者庁が労働者1万人を対象にした昨年の調査では、勤務先で不正を目撃しても「相談・通報しない」とする人が約4割もいた。理由は、「適切に対応してくれないと思う」「嫌がらせを受ける恐れがある」など内部通報制度への不信感があった。

 公益通報者保護法に詳しい中村雅人弁護士は、声を上げづらい一因として、「現行法は非常に使い勝手が悪い」と指摘する。

「公益通報の対象となるのは、約8千本ある法律のうち、労働基準法や食品衛生法、金融商品取引法など約500本の法律の中で刑事罰の対象となる行為だけ。限定的な運用のため、該当しなければ通報してもこの法律では保護されることがなく、多くの人は制度を活用する場面で萎縮してしまいます」

 しかも裁判になれば、立証責任は原告側にある。例えば、通報を理由に不利益処分を与えられたとする場合、「因果関係」を原告側が立証しなければいけない。だが通常、人事的な判断について一従業員である原告が会社の情報にアクセスすることはほぼ不可能だ。

「そうなると、通報した時期と配置転換の時期が近接しているなど、間接証拠の積み重ねで立証するほかありません。しかし、裁判官が因果関係があると推認してくれるほどの証拠を積み上げるのは難しい。通報者が安心して通報できる環境が整っていません」

制度を機能させるには独立した外部窓口が必要

 一方で、海外は企業や組織の不正を暴いて世の中の利益にプラスになることを通報した人は保護しようというスタンスだという。例えば、韓国の公益通報者保護法には「不利益措置の推定」という規定がある。通報者が通報から2年以内に不利益な配置転換や解雇などが行われた際、通報に対する報復だと裁判所が「推定」し、企業が通報に対する報復ではないと証拠をもって反証しないといけないことになっている。

「考え方の根底にあるのは『公の利益』、つまり公益を守ろうという考えです。通報者は世の中の利益になることをした保護すべき人という位置付けです」(中村弁護士)

 内部告発者がリスクを背負い、安心して声を上げられないなら、制度は機能しない。機能させるには何が必要か。

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独立した外部窓口の設置が必要