兵庫県の斎藤元彦前知事をめぐる告発文書問題で、公益通報の対応が蔑ろにされていたことが明らかになった。斎藤氏は失職したが、知事選への立候補を表明している。9月27日
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 兵庫県の斎藤元彦前知事が内部告発された問題で、公益通報制度に注目が集まっている。法律で守られるはずの公益通報者が守られず、人命が奪われた。声を上げやすくし、通報者を守るには何が必要か? AERA 2024年10月21日号より。

【写真】兵庫県庁を出ていく斎藤元彦氏。また戻ることがあるのか?

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 兵庫県の斎藤元彦前知事が告発された問題で、公益通報制度に注目が集まっている。3月、元西播磨県民局長(当時60)は、斎藤氏のパワハラ疑惑などに関する「告発文」を報道機関などに送付した。翌4月には元局長は、公益通報制度に基づき、県の窓口にも同じ内容を通報。しかし県は告発を公益通報として扱わず、告発者の特定に動いた。その結果、元局長が特定され懲戒処分を受けた。元局長は事実解明を求めながら7月に亡くなった。自死とみられている。

 不正を告発した人を守る公益通報者保護法は06年、雪印食品の牛肉偽装や三菱自動車のリコール隠しといった不祥事を受け施行された。企業に対し、通報を理由にした解雇や降格、減給など不利益処分を禁じた。22年、法改正に伴い新設された指針では「通報者捜し」が禁止され、従業員300人超の事業者に通報を受け付ける体制整備の義務づけなどがなされた。

 法律で守られるはずの公益通報者が、なぜ守られないのか。

 兵庫県のケースだけでない。和歌山市では20年、公金の不正使用を公益通報した市職員(20代)が、別の部署に異動後に自死した。鹿児島県警でも今年6月、元県警幹部が、県警内部の不祥事をフリーの記者に内部告発したが、守秘義務違反で逮捕・起訴された。

「和」を乱す行為は嫌われる日本のムラ社会

「日本に残るムラ社会が原因」

 こう指摘するのは、公益通報に詳しい淑徳大学の日野勝吾教授(社会法)だ。日本の企業や組織には、年功序列や終身雇用がいまだ残る。こうしたムラ社会では、「和」を乱す行為は嫌われ、周囲から白い目で見られたり異動や降格など不当な扱いを受けたりする。しかも、公益通報者保護法は、公益通報を理由とした解雇や減給などの処分を禁じているが、企業や組織への罰則規定はない。不利益な扱いを受けた場合は通報者が裁判で訴えなければならず、「正直者がバカを見る」ことになっている、と日野教授は言う。

「声を上げても救済のハードルが高く、不利益な取り扱いを受けるかもしれないという懸念があり、公益通報制度が根付かないことに繋がっています」

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声を上げづらい状況は、データからもうかがえる