豊かさの本質はどこにあるのか

 国家の能力、経済発展、経済成長とは何か。それを一般の人に対してどのように説明したらよいか。そもそも「豊かさ」や「繁栄」の本質はどこにあると考えたらよいのでしょうか。

 経済成長というのは、それをどう測定するかで変わってきます。それについては新著“Power and Progress : Our Thousand-Year Struggle Over Technology andProsperity”(サイモン・ジョンソンとの共著『技術革新と不平等の1000年史』)で強調した、もう一つのテーマです。

 GDPだけで経済成長を測定することはできません。意義ある人生、良い仕事、平等が必要です。これらはAI革命がさらに脅威にさらす問題です。

 恐らくAIはデータや新しいプログラムなどの面で生産性を増すでしょう。でも、もしそこから得られた利益を平等に分配することができなければ、より良き市民、労働者になる気持ちをわかせることは難しいでしょう。そうなるとそれは進歩とは言えません。

 新たな産業革命が起きたり、AI革命が起きるとパワーバランスが変わったり、まったく異なる局面に入ることになります。だから妄信的に楽観主義になるのは危険であると私は言いたいのです。テクノロジーをコントロールする人が勝者になり、他の人は取り残されます。

 AIについて最近よく考えます。

 AIには確かに明るい将来があるでしょうけれども、私が今まで抱いていた懸念も象徴しています。テクノロジーの変化の歴史について振り返れば、AIなどテクノロジーが発達すると経営者や企業はますますパワフルになりますが、それは労働者や一般市民を犠牲にしたうえでのことです。

「自由への回廊」はAIのせいでますます狭くなっていると思います。さきほど言ったように、AIは一般市民や労働者を食い物にして、最大規模の企業と政府だけをますますパワフルにさせているだけです。

(聞き手・ジャーナリスト 大野和基)

※朝日新書『民主主義の危機』から抜粋。『民主主義の危機』では、ダロン・アセモグル氏インタビュー全文のほか、世界の知性たちが語る未来予測を読めます。

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