アセモグル氏にインタビューを行うジャーナリストの大野和基氏

中国の新しいナショナリズム

 中国は日本を抜き世界2位の経済大国となり、アフリカや中東への関与を拡大させています。とはいえ、中国においても景気後退と人口減というリスクは指摘され、かつ、リーダー自ら憲法改正して任期制度を撤廃し、初の3期目を務めるなど民主国家・自由主義とは異なる「専横」の道を突き進んでいます。

 習近平・国家主席がますます専横的になってきたことは間違いありませんが、私は中国に対して、以前とはいささか異なる解釈をしています。

 以前は、elite circulation(エリートの循環)という鄧小平のモデル下で、エリート・コントロールをしていたから、中国はうまくやっていたと考える人がいました。つまり一人のエリートが入ってきて、さらにもう一人のエリートが入ってくると、彼らがお互いを抑制し合い、それでうまくいっていたのです。けれども、そのモデルが安定したことは一度もないと思います。

 これは私の著書『自由の命運』の主要テーマの一つです。

 トップに君臨するエリートによって計画された経済的ダイナミズムと、自由は両立しません。そこには社会の参画が必要です。中国がますます裕福になったことで中間層が出現してくると、自由に対する要求がより多く出されるようになりました。ある意味、習近平自身が過去の均衡を維持して、中間層を抑圧してきた共産党システムの結果です。

 それにはある程度経済改革を必要としますが、政治的抑圧と情報コントロールが著しく引き締められます。

 中国共産党にとって、それを実行する一つの方法は、ナショナリズムをあおることです。実際のところ、中国の新しいナショナリズムは、共産党のコントロール下にありません。それは自律した力になりました。もちろん、より習近平らしい方法もあります。例えばゼロ・コロナ対策です。これはより特異な対策でしたが、私は習近平を中国の政治システムからの逸脱とは見ません。単に、以前からの継続であると見ます。

 中国と政治的・経済的・軍事的に覇権を争うアメリカは、トランプ以後、国内の分断と格差問題を抱えています。2023年3月に起きたシリコンバレーバンク破綻をきっかけとした銀行不安に証券市場の動揺が重なれば、新たな信用不安となりグローバルに波及していく可能性も指摘されています。

 しかし、実際それがグローバルに広がるとは思いません。むしろ、アメリカが抱えている主要な問題はバンキング・セクターにあるのではなく、テクノロジー・セクターにあり、格差を生み、他のすべての会社を食い物にする少数の企業が幅を利かせていることにあります。            

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