ダロン・アセモグル氏ら3人の研究者が今年のノーベル経済学賞を受賞した。ポピュリズムのさらなる台頭、災害、AIの利用で世界はどう変わるのか。アセモグル氏が日本の民主主義について語った。朝日新書『民主主義の危機』から。
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日本の民主主義
日本は1990年代のバブル崩壊以後、長期停滞に入ったままと言われます。国家は、少子高齢化による人口減・経済格差など多くの社会問題を解決できないにもかかわらず、政権転覆につながるような激しいデモや社会変動は起きていません。つまり、国家を監視し、国家の「専横」を防ぐほどには社会は強くない。この日本の状況はとても興味深いと思います。
私は日本の専門家ではありませんが、なぜ日本の労働者が賃上げをもっと激しく要求しないのかわかりません。日本は最近の例で、高齢化が最も早く進んでいる社会ですが、ロボットを多く使ったり、経済活動を立て直したり、いくつかの点で日本はその傾向にうまく適応したと思います。
少子化対策というのは非常に難しいチャレンジです。もっと子どもを作るように人に命令することはできません。中国では人口減が問題視されているようですが、他のヨーロッパなどの多くの国は日本と同じような人口統計学上の問題に直面していません。なぜなら移民の受け入れに積極的だからです。
日本はそうした選択をしませんでした。難民認定がとても厳しいからだとも言われますが、その理由はわかりません。
とはいえ、いろいろ考慮してみると、日本の民主主義は総合的にうまく機能しています。もちろん贈収賄や談合も起こっていますが、それは民主主義のプロセスがそうした問題を認識して立ち向かわなければなりません。
私の祖国トルコにおける民主主義はまったく異なります。
トルコの民主主義はほとんど死んだも同然です。他方、経済は違います。地方から都会に移っています。一時、大規模な建設ブームがありましたが、労働組合はトルコでは非常に弱く、大きなストライキは起こっていません。トルコの労働市場は規制されており、それが多大な非効率性を生み出しています。
トルコでは民主主義が〝逆戻り〞したので、報道の自由はまったく残っていません。国に対して反体制的なものの見方を公表したことで刑務所に入れられている人がたくさんいます。司法は完全に大統領のコントロール下にあります。