ISSは、上空400㎞の軌道上を高速移動する。そこで高精度に電波を受信できると実証した意義は大きい。
現在、エルトレスは、移動車両の管理、貯め池や水田の水位監視、街路灯の電力と設置位置情報の管理、放牧牛のトラッキング、物流管理などの幅広い業種で活用されている。
独自通信規格「エルトレス」を使って農業を効率化する
22年から北海道大学と共同で進めている小麦の生育センシングは、エルトレスを使った「地球みまもりプラットフォーム」の一例だ。
小麦は、麦の穂が出る際、的確なタイミングで農薬を散布しないと、「赤かび病」と呼ばれる病気にかかりやすい。しかし、農家の数が減り、高齢化も進むなかで、広大な農地のどこの畑の穂がどれだけ生育しているかを人が監視し続けることはむずかしい。
そこで、農地にセンサーを設置する。畑に設置したセンサーでセンシングするのは、小麦の穂の数、土壌の水分量、平均気温の3つのデータだ。ポイントの1つは、小麦の穂の数である。
「事前に、小麦が出穂した映像をAIに学習させるんです。AI処理機能をセンサーに組み込むことで、センサーは小麦畑でセンシングした画像から出穂している穂の数という数値のデータだけを取り出します。画像のデータは重いですが、数値にすれば約10万分の1のデータ量になり送信しやすくなるんですね」
と、彼女は説明する。
穂の数、土壌の水分量、平均気温の3つのデータをエルトレスで送信し、低軌道衛星に搭載された受信機で受信する。収集したデータの分析結果を農家に伝えることで、農家は農地にいかなくても、農薬を散布する適切な時期を判断できるようになり、大幅な効率化が可能になる。
ちなみに、映像のデータから穂の数だけをセンサー側で判断して抽出できるのは、「IMX500」によって、CMOSイメージセンサーとAI処理機能を組み合わせられるようになったからである。半導体やAIの技術の進化と、通信技術が掛け合わされて初めて、「地球みまもりプラットフォーム」は実現する。