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 社会課題の解決に挑むソニーの女性エンジニア、桐山沢子。「地球みまもりプラットフォーム」という技術でいったいどのような課題が解決されるのか。彼女の挑戦を通して、心の底から仕事を楽しむという働き方に迫る(片山修著『ソニー 最高の働き方』よりの抜粋記事です)。

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国際宇宙ステーションで地上からの電波を受信

 現在、広く社会で使われている無線通信規格には、4G、LTE、Wi-Fi(ワイファイ)、ブルートゥースなどがある。Wi-Fiは、家庭、オフィス、公共の場などで利用され、ワイヤレス、高速通信、複数デバイス同時接続などの特徴がある。ただし、これらの無線通信規格は、コストや消費電力に課題があり、長時間使用がむずかしい。

 IoT分野での活用を想定し、その欠点を満たすために生まれた無線通信規格が「LPWA(Low Power Wide Area)」だ。

 エルトレスは、このLPWAと呼ばれる無線通信規格に含まれる、ソニーの独自規格だ。

 特長は、「低消費電力」「長距離安定通信」「高速移動体通信」である。

 20ミリワットというごくわずかな送信電力で、見通し100㎞(送信機と受信機の間に遮蔽物が何もない環境における100㎞)という長距離を伝送でき、高速移動する車両や列車などの移動体上で安定して通信ができる。以下、彼女の説明である。

「場合によりますが、このレベルの低消費電力は、コイン電池1個で2年、3年といった長期間、データを送信し続けることができます。人がめったに立ち入れない場所にセンサーを設置したとしても、数年間は働き続けてくれるわけです。まさに、『地球みまもり』にうってつけの規格なんですね」

 もっとも、受信局の設置が困難な険しい山岳地帯や、水平線を越える遠く離れた海上においては、地形や波浪により電波が遮られる場合がある。そのため、地上から完全な見通しを確保できる人工衛星の活用が期待されている。

『ソニー 最高の働き方』(片山修・著/朝日新聞出版)

 衛星を利用すれば、電源も、通信インフラもない、人力では常時カバーすることがむずかしいエリアからも、一度センサーを設置するだけでデータを集めることができる。

 21年12月、ソニーはエルトレスに対応した独自の衛星無線実験装置を、国際宇宙ステーション(ISS)日本実験棟「きぼう」の船外実験プラットフォームに設置し、地上のIoTデバイスから送出された電波を同実験装置で受信することに成功した。

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