観光列車の魅力は「至れり尽くせりの点」だと久野さん。
「観光列車は列車に乗ること自体が『観光』にもなっています」
西武鉄道が運行している、「西武 旅するレストラン 『52席の至福』」も、そんな観光列車の一つだという。池袋(東京都豊島区)または西武新宿(同新宿区)~西武秩父(埼玉県秩父市)間をメインに走る。実は久野さん、この列車の車内アナウンスも担当している。
車内では、地域の食材のコース料理や酒が提供され、お土産もついてくる。終点の西武秩父駅には、駅直結の「西武秩父駅前温泉 祭の湯」という複合温泉施設がある。温泉だけでなく、食事やお土産を買うことも可能だ。
「鉄道会社がすべてお膳立てしてくれているので、下準備がなくても、観光列車に乗れば、沿線のことを知れて楽しむことができます」(久野さん)
利用者の裾野を広げる
観光列車の定番とも言えるのが、蒸気機関車が牽引する「SL」だ。中でも静岡県の大井川鐵道は、全国に先駆けて「SL」を観光用に復活させたことで知られる。新金谷(静岡県島田市)~川根温泉笹間渡(かわねおんせんささまど、同)間、南アルプスを源流とする大井川に沿って、黒い煙を噴き上げながら北上する。
同鐵道は1976年7月から日本で初めてSLを走らせながら保存する「動態保存」を行っていて、今も全国からSLファンや観光客が押し寄せている。
しかしなぜ今、観光列車なのか。
鉄道ジャーナリストの松本典久さん(69)は、沿線人口や流動性の減少で需要が減り、鉄道の運営という視点では厳しくなっていることが背景にあるという。
「鉄道会社としては、従来の輸送形態を維持しつつも、新たな魅力を創生することで利用者や収益を増やすことが必要。『観光列車』の導入によって直接乗車してもらったり、話題にしてもらうことで利用者の裾野を広げるなどし、そこに活路を見いだそうとしているのだろう」
松本さんは、観光列車の魅力の一つに「非日常性」があると言う。
「単純な移動手段ではなく、乗車時間を普段と違った状況で楽しめます」