あごのエラ張り改善のためにボトックスを注射する人も。画像はイメージ(GettyImages)

信頼できる医師の見分け方とは

 自己注射は言語道断としても、厄介なのは、「素人の自己注射と同じレベルの技術しか持ち合わせていない医師」の存在だ。小川院長は、今の医療界で巻き起こっている“社会問題”として、警鐘を鳴らす。

「利益率が低く、医師の自己犠牲を前提に成り立つ保険診療に嫌気がさして、自由診療である美容医療に転向する医師は、ここ数年で急速に増えています。その結果、知見や経験が不足している美容外科医や美容皮膚科医が世にあふれている。さらに、内科などのクリニックを経営している“町医者”のような先生たちが、本業の片手間でボトックス注射を打っているケースも増えてきました。『ボトックスなんて医者なら誰でもできる』『失敗しても時間が経てば元に戻るから、訴訟を起こされにくい』といった安易な考えのもと、お金もうけのために手を出す医師もいるようです」

 注射というシンプルな処置であっても、医術である以上、追求すれば奥は深い。皮膚の厚みや筋肉に達するまでの距離は人によってバラバラで、医師は自らの指先の微妙な感触によって、注射器の針がどの筋肉のどの層を貫いているのか判断する。ただ注射を打つという“30点”のレベルなら簡単にクリアできても、患者に満足してもらえる“90点以上”の成果を高確率で出すためには、長年の経験に裏打ちされた技術が必要だ。

 では、どうすれば信頼できる医師を見極められるのか。小川院長によると、着目すべきポイントが二つあるという。

「一つ目は、美容外科医や美容皮膚科医としてのキャリアが少なくとも数年以上あるかどうか。もう一つは、ボトックス治療の症例を一定数持っているかどうかです。最近は自分が担当した症例写真をSNSなどで公開する医師も増えましたが、いくら評判の良いドクターでも、たとえば鼻の手術の実績ばかり紹介していたら、ボトックス注射の実力は判断しようがないですからね」

 美容医療は厚生労働省が承認していない治療や薬も使用する自由診療である以上、安全で満足のいく治療を受けるためには患者側にも高いリテラシーが求められる。「たかがボトックス」という軽い気持ちで、“悲劇の4カ月”を送ることのないよう、医師選びには慎重を期したほうがよさそうだ。

(AERA dot.編集部・大谷百合絵)

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大谷百合絵

大谷百合絵

1995年、東京都生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。朝日新聞水戸総局で記者のキャリアをスタートした後、「週刊朝日」や「AERA dot.」編集部へ。“雑食系”記者として、身のまわりの「なぜ?」を追いかける。AERA dot.ポッドキャストのMC担当。

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