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 売上高約13兆円、営業利益約1兆2000億円(2023年度決算)と、ソニーグループの躍進が著しい。テレビ事業の赤字からどん底に沈んだソニーが復活した秘密は、自由な働き方を保証しつつ、進化してきた「人事制度」にある。

 知られざるソニーの人事制度の深層について、ソニーグループ執行役専務で人事・総務担当の安部(あんべ)和志氏に聞く(片山修著『ソニー 最高の働き方』よりの抜粋記事です)。

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Purpose」に具現化された設立趣意書

 なぜソニーでは、楽しく仕事ができるのか。なぜ思う存分、チャレンジできるのか――。ソニーの不思議を解くカギは、人事制度と人材に対する考え方にあるのは間違いない。ソニーグループ執行役専務で人事・総務担当の安部和志に話を聞いた。

 その象徴は敗戦の日から9か月後に、焼け残った東京・日本橋の白木屋デパートの一室を借りて立ち上げられた東京通信工業の「設立趣意書」である。執筆したのは創業者の1人の井深大だ。「真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」――。

 ソニーの創業精神「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」は、今日、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」という「Purpose」に具現化されている。

 時計の針を少し戻してみよう。2006年、安部は驚きの日々を過ごしていた。米国ソニーのエンタテインメント事業統括会社で、エグゼクティブの人事を担当したときのことである。

「エンタテインメントのエグゼクティブたちの報酬はかなりダイナミックです。彼らは、会社と個別契約を結ぶにあたり、真剣に交渉をします。個人と会社は、対等に向き合い、本気で対話をし、互いの合意点を見出そうとする……。そのやり取りには、新鮮な驚きがありました」

『ソニー 最高の働き方』(片山修・著/朝日新聞出版)

 エンタテインメント事業部門で働く人のミッションは、「感動」の創造だ。彼らは、並外れた個性と強い意思を持ち、仕事へのこだわりはハンパではない。ましてや、エグゼクティブともなれば、業績貢献への自負もある。

 彼らは、自分の価値を最大限認めてもらおうと、ストレートに個性をぶつけ、会社と緊張感のある「対話」をする。

「対話は真剣ですが、会社との向き合い方は、とくにギスギスしたものではありません。エンタテインメント事業のエグゼクティブは魅力的な人が多く、個性のアピールの仕方もユニークです。個を大事にするとは、こういうことか……とあらためて思いました」

 もとよりソニーは創業以来、個を大事にする会社として知られる。安部は1984年に入社以来、人事畑を歩み、英国工場、エリクソンとのジョイントベンチャーなど、豊富な海外経験を有するが、その彼をもってしても、米国のエンタテインメント事業統括会社における個人と会社の向き合い方は新鮮な驚きだった。

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