「夫の海外赴任で」と聞くと、現地で妻は優雅な生活を送っているとイメージする人も多い。しかし令和を生きる駐妻の現実は世間のイメージと異なる部分もあるようだ。AERA 2024年10月7日号より。
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異国の地では、キャリアではなく、主婦としての役割が強く求められることがある。
夫のインド赴任に同行した愛知県在住の公務員の女性(42)は、日本人の妻たちが家の片付けが完璧で、持参の浴衣や着物を当たり前のように着付け、正月におせち料理を手作りする光景に最初は圧倒された。
「子どもが同じ幼稚園に通う日本人ママたちとのホームパーティーでは、料理や盛り付けのスキルの差が如実にあり、恥ずかしい思いを何度かしたことがあります」
女性は毎日、夫にお弁当と日本食の夕飯を用意していた。「感謝の念は全般的に感じましたが、キャリアに関する私の心情は知らないかもしれません」と話す。
女性は勤務先の配偶者同行休職制度を利用。休職期間は無給だが、復職後は同じ職場に戻ることができるシステムで、キャリアの中断は、さほど気にならなかったという。1人目の育休から復職した際、意外と何とかなった経験があったし、2人目も考えていたため、いずれまた休職をすることは想定内だった。ただ、同じ休職でも配偶者同行は“自己都合”とみなされる。そのため駐妻時代の3年間はキャリアには加味されない。
「このブランクがなかったらもう少し昇進が早く、生涯年収も結構変わっていたと思います」
女性は、海外赴任者に同行する配偶者が働いている場合、配偶者同行休職制度や再雇用制度がなかった場合のことを考えるとモヤモヤするという。
「夫または妻が所属する企業や団体は、従業員の配偶者のリソースを奪っている認識はあるのでしょうか。その分、あなたの組織は社会に還元できているのかと疑問に思うことも。双方にとってウィンウィンの関係を築けたらいいのですが」
優雅なイメージにズレ
海外生活を満喫しているイメージが強かった駐妻。働く女性が増える中、現地から聞こえてくる声は大きく変化している。
「令和を生きる駐妻の現実感は、現地で優雅な生活を送っているという世間のイメージとは異なります」と語るのは、現在ベトナムに在住する高橋智恵子さん。約20年勤務した会社を退職して夫に同行することを決めた。育休を2回取得していたため、再び休職するのは気が引けたことが退職理由の一つだ。