スマホのライトを頼りに手術

 自分自身は今までどんな状況でも座右の銘にしてきた「鈍感力」もあり、淡々としているほうだと思っていたが、同じ女性医療者だと自分と重ね合わせてしまい、少し感情移入してしまっていた。

 ガザでは11月の時点ですでに医療物資はもちろん、水や電気もぎりぎりの状況だった。勤務前など時間があるときには、倉庫を探って先に届いていた国境なき医師団の物資から使えそうな薬や道具を探した。たくさん積み上げてある数々の箱から私たち外科医や麻酔科医、救急医は宝探しのように病院で使えそうな薬剤や手術道具、清潔なガウン、ガーゼなどを探しあて、持ち出す前には必ず在庫管理担当の薬剤師に許可を得なければいけなかった。まるでお母さんに「これ持って行っていい??」と聞く子どものようだった。手術中に停電したこともあった。そのときはスマホのライトで照らし、その明かりを頼りに手術を続けた。

ガザのナセル病院で停電時に、スタッフ全員で携帯のライトを照らして手術を継続した=11月30日(写真/国境なき医師団提供)

 目の前の患者さんを救いたいとなんとか助けても、数が多すぎる、重症すぎる、薬剤や器材がなさすぎる。それでも容赦なくあちこちで空爆が続き、重症の患者さんが波のようにどっと来続ける。医療スタッフ総出で必死に血まみれ、汗まみれで頑張っても全然追いつかない。ふと考えてみると、病院にたどり着くのはほんの一部の人々だ。まだ見つかっていない、助けられるチャンスすらなかった命がたくさんあるはず。「もう無理じゃん」と絶望感に襲われたりもした。戦争の破壊力を思い知らされたし、自分たちがいち医療者としてできることがあまりにも小さく、無力さを感じるばかりだった。

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中嶋優子(なかじま・ゆうこ)

東京都出身。東京都立国際高校、札幌医科大学卒業。日本と米国の医師免許を持つ。日本で麻酔科医として勤務の後2010年に渡米、救急医療の研修を開始。2014年に米国救急専門医取得、2017年には日本人として初めて米国プレホスピタル・災害医療専門医を取得。国境なき医師団には2009年に登録。2010年に初めての海外派遣でナイジェリアで活動し、その後もパキスタン、シリア、南スーダン、イエメン、シリア、イラクで活動。2023年11~12月にかけてパレスチナ自治区ガザ地区で活動した。現在は米アトランタ・エモリー大学救急部の助教授を務め、24年9月からは準教授職に。

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