吉松徹郎。@cosmeを運営するアイスタイルの創業者にして代表取締役会長CEO。@cosmeのトップページを背に六本木の本社にて。(撮影/写真映像部・和仁貢介)
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 聖心女子大学で教えていると、慶應や上智で教えていた時には出会わなかったことに出会う。

 そのひとつが@cosmeというプラットフォームだった。

 化粧品に特化したプラットフォーム@cosmeが女子大生の化粧品選びになくてはならないものだということを知ったのだ。

 この@cosmeを運営するアイスタイルという会社を、26歳の若者吉松徹郎が起業したのは1999年。ヤフー・ジャパンがウエブ上に姿を現したその3年後のことだ。

 東京理科大で生物工学を学んだ吉松は、当時化粧品会社の開発部門にいた大学の同級生山田メユミからヒントを得て、ウエブ上に、化粧品のクチコミサイトをつくることを思いつく。二人は、新婚旅行と結婚式のためにとっておいたお金で夫婦で起業することになるが、これは画期的なアイデアだった。

 紙の新聞がちょうど絶頂期を迎える2000年前後、人々は化粧品を選ぶとすれば、資生堂やカネボウ化粧品といった大手化粧品会社の美容部員の勧めに応じるか、あるいは、テレビでシーズンごとに流れるマスキャンペーンの化粧品を手にとるしかなかった。

 ネットであれば、化粧品ごとのクチコミを掲載することができる。

 そうしてできた化粧品のクチコミサイトが@cosmeだった。

 その存在を2024年に認知するとは、いかに自分がまったく違う世界で生きてきたか、ということの証左なのだが、しかし、学生のプレゼンを聞きながら、新聞社とプラットフォーマー「ヤフー」との間で起こったのと同じことが、化粧品会社と@cosmeの間に起こったのではないだろうかと気がつき、そこを調べて書いているのが今回のコラム。

かつてはテレビと雑誌に莫大な広告費を使っていた

 結論から言うと、新聞社とヤフーの間に起こったようなドラスチックな明暗は化粧品会社と@cosmeの間には起こってはいない。

 @cosmeが始まった1999年のヤフーの売上は、51億円にすぎなかった。それが、24年の間に、1兆8000億円を超える売上に急成長をとげる。新聞業界は同じ時期、2兆4000億円を超えていた総売上が、1兆3000億円と約半分になってしまった。

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下山進

下山進

1993年コロンビア大学ジャーナリズム・スクール国際報道上級課程修了。文藝春秋で長くノンフィクションの編集者をつとめた。聖心女子大学現代教養学部非常勤講師。2018年より、慶應義塾大学総合政策学部特別招聘教授として「2050年のメディア」をテーマにした調査型の講座を開講、その調査の成果を翌年『2050年のメディア』(文藝春秋、2019年)として上梓した。著書に『アメリカ・ジャーナリズム』(丸善、1995年)、『勝負の分かれ目』(KADOKAWA、2002年)、『アルツハイマー征服』(KADOKAWA、2021年)、『2050年のジャーナリスト』(毎日新聞出版、2021年)。標準療法以降のがんの治療法の開発史『がん征服』(新潮社)が発売になった。元上智大新聞学科非常勤講師。

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