米国の大学を目指す高校生アスリートが増えている。陸上のサニブラウン(フロリダ大)、バスケットボールの八村塁(ゴンザガ大)、そして、野球の佐々木麟太郎(スタンフォード大)――。なぜ、トップアスリートが海外の大学を目指すのか。
【ガチで文武両道】入口に学業成績トップ10の選手のスコアボードが!
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佐々木麟太郎が名門・スタンフォードへ
「野球だけでなく学業にもこだわりました」
今春、岩手・花巻東高校の強打者、佐々木麟太郎選手(3年)は、米国の名門スタンフォード大への進学を決めた理由を報道陣にこう語った。
同大は、ノーベル賞でも、オリンピックでも、数多くのメダリストを輩出してきた世界屈指の大学だ。
米国のワシントン大・アメリカンフットボール部でアシスタントコーチを務めた経験のある追手門学院大客員教授の吉田良治さんはこう語る。
「そこへ佐々木が進学するインパクトは非常に大きい。日本の高校生アスリートが米国大を目指す流れは、もう止まらないでしょう」
米国は「スポーツ漬け」より「文武両道」
学生アスリートにとって、米国の大学と日本の大学の大きな違いはズバリ「学業」だろう。「スポーツ漬け」になりがちな日本とは違い、米国の大学では「文武両道」が求められるのだ。
全米約1200校が所属するNCAA(全米大学体育協会)は学業成績が一定以上でないと、試合どころか、練習にも参加できない規定もある。学業成績がよくないチームには試合や練習時間の削減といったペナルティーが与えられる。
大学とは高等教育を受ける場だ。
「米国の大学スポーツは高等教育を学ぶ学生によるスポーツという位置づけで、『学業成績が優秀』であることを前提に成り立っている」と吉田さんは指摘する。
「『優れたスポーツ選手だから成績は大目に見よう』なんてことは一切ありません。佐々木も成績基準をクリアするために勉強に追われることになるのは間違いないでしょう。学業成績によっては1年目の出場資格がなくなる可能性すらある。相当な覚悟でしょう」(吉田さん)
学生アスリートでプロになるのはわずか3.6%
NCAAが「文武両道」を重視するのは、アスリート人生を終えてからの「セカンドキャリア」を見据えてのことだ。
NCAAには約50万人の学生アスリートが登録しているが、そのうちプロ選手になる割合はわずか約3.6%(2014、15年調査)。つまり、残り95%以上は別のキャリアを築くことになる。また、プロの道を選んでも、いずれは体力の衰えやけがなどで引退する。
1980年代初頭、米国では競技の引退後、スポーツ以外のキャリアを築くことが困難になる「人生崩壊」が問題視されていた。燃え尽き症候群によるアイデンティティーの崩壊、社会的な疎外感から逃れるために酒をあおり、薬物に手を出し、家庭や人生を台なしにする元選手は珍しくなかった。そのため、現在の「文武両道」の仕組みが整備されたという。