例えば、ベビーシッターの確保。単身で子育てしながら仕事をするには、現地でベビーシッターの確保が必須になる。もう一つは食材の購入。仕事を終えた後、買い物をしたくても近所に夜間も営業しているスーパーがないと子どもに新鮮な食事を与えられなくなる。これらはほんの一例だが、現状ではこうした生活面で勤務先のサポートは得にくく、人手や住環境、コストは自力で確保するしかないのが実情という。

 この状況を変えるには、「妻と子どもが夫についていく」のが前提で成り立っている企業の従来の男性向け制度・規定、習慣の抜本的な見直しが不可欠だと小林さんは訴える。

また同時に、帯同する側の意識改革も求められている。

 「帯同をポジティブな意味でのキャリアブレイクの機会と捉える意識が必要です。現地の大学院に通ったり、異業種の仕事を経験したり、子育てに集中して向き合ってみたり。この期間にしかできない非日常を体験することで、帰国後の自身のキャリアにも好循環を期待できます」(同)

 小林さんは「女性を優遇する制度づくり」を求めているのではない。男性だから女性だからというのではなく、本人が希望すればパートナーも海外に帯同できる制度の創設や、誰にとってもチャレンジしやすい風土が浸透すれば、企業の成長にもつながるはずだと考えている。小林さんは言う。

 「その意味で女性の海外駐在員を増やす取り組みは、企業の成長の可能性を測る一つの試金石といえます」

小林美紗(こばやし・みさ)JACベトナム コンサルタント

日系大手機械メーカーの人事部で新卒採用担当として大学・高専卒、外国人留学生などの採用、受け入れに携わった後、資材調達部に異動し、コネクタ、ワイヤーハーネス、アルミダイキャストなどの国際調達を行なった。2022年よりジェイ エイ シー リクルートメント海外進出支援室に在籍。グローバル企業における実体験を活かして海外事業要員確保に関する助言を行なうほか、人材確保に関する国内外での調査を行なう。現在は、人材コンサルタントとしてJACベトナム勤務。

(編集部・渡辺豪)

AERA 2024年9月30日号より抜粋

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