都内に住む女性会社員(35)は、2012年の出版直後にこの本を読んだ。当時は大学医学部を休学し、父親の介護をしていた頃だ。両親は離婚しており、父との二人暮らし。親戚から「女の子なのだから」と父の面倒を見るように言われ、そうするしかないと考えていた。「不可抗力で、そこから逃げられない状況だった。でもモヤモヤしていた」と振り返る。

根源的な悩みは同じ

 本を読んだのは、話題になっていたこともあるが「自分がしていることに意味があると思いたかった」からだ。

 女性は最終的に大学を中退し、大学卒業資格がなくても入社試験を受けられたマスコミに入った。仕事は多忙で、セクハラやパワハラも日常茶飯事。それでも女性は「置かれた場所で咲いていかなくちゃ」と考え、我慢して働いたという。

 しかし女性の先輩から「それは人権の問題」と言われ、「昭和の父」から植え付けられた価値観が少しずつ崩れた。社内を見渡すと、女性は男性に比べて昇進が遅いことにも気づいた。我慢することをやめて、自分で選んでみよう──。そう考えてグローバル企業に転職したという。

 勤務先には、鉄道や電気メーカーなどの大手企業から転職してくる人も多い。一方、プロジェクトが終われば新たな職場へ移る人も絶えず、人材は常に流動的だ。同世代の彼らの考え方は「置かれた場所で咲いていたら、土がなくなる可能性も、土壌が汚染されて死んでしまう可能性もある」。それならスキルを磨いて世界に出て行こう、と考えている人が多いように感じる。

 でも、同じ社内でも上の世代は考え方が違う。役員になっている女性に転職を考えないのか尋ねると、「就職氷河期にせっかく拾ってもらった恩がある」「育ててもらったし、愛着もある」との答えが返ってきた。自分にはまったく無い感覚だったので驚いたという。

 ただ、自身も30代中盤になり、選択肢が狭くなりつつあると感じている。結婚や管理業務など、この世代ならではの悩みもある。「いまの60代の人が30代のときに持っていた悩みって、いまの私の悩みと根源的には変わっていないのでは、と思います」

 どんな場所で花を咲かせるのか。そして、花を咲かせられない時はどうすればいいのか。時代が変わっても、誰もが直面する問いなのかもしれない。(フリーランス記者・山本奈朱香)

AERA 2024年9月23日号より抜粋

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