ロシアの核魚雷「ポセイドン」 (撮影日不明 ビデオ画像)(提供:Russian Defense Ministry Press Service/AP/アフロ)

「ロシア指導部は、ウクライナの軍事作戦で必要があると考えれば、核兵器を使う用意があると思うか」という質問に対する答えは以下の通りだ。

  •  もちろんある 9%
  •  おそらくある 20%
  •  おそらくない 32%
  •  絶対にない  28%

 こちらも、29%の人が、核兵器が使われる可能性を現実のものとして受け止めているという結果だ。

 核兵器の使用が正当化される、また現実に使われる可能性があると考える人がほぼ3割に達するという結果に、私は衝撃を受けた。ロシアではソ連時代から、核兵器がいかに非人道的な兵器かという教育が行き届いており、ロシア国民の核兵器への拒否感は、被爆国の日本と同じくらい高いと思っていたからだ。

 もちろんそうした教育の理由は、主として冷戦下で対立していた米国を批判するためではあったのだが。

 ソ連では、原爆の悲劇を取り扱った映画も多く作られた。

 1974年にソ連が日本と協力して制作した「モスクワわが愛(原題:Москва любовь моя)」もその一つだ。

 栗原小巻氏が演じる広島生まれの少女、百合子が単身モスクワに渡航して、バレエのレッスンに打ち込む。才能を見いだされてボリショイ劇場の主役への抜擢が決まったときに、母親の胎内で被爆したことに起因する白血病を発症。ロシアの青年と育んできた愛は悲恋に終わるというストーリーだ。

 私が初めてこの映画を見たのは、96年8月6日、広島原爆の日のことだった。当時旅行で訪れていた、バイカル湖に近いイルクーツクのテレビで放映していた。

 ちなみに栗原小巻氏は、ロシアでは知らない人はいないほどの人気俳優だ。私が「こまきです」と自己紹介して、栗原小巻氏の名前を出されたことが何度もある。

 ではなぜロシアで今、核兵器への抵抗感が薄れているのだろうか。

 私見だが、「核を使おうとしているのはウクライナだ」というプロパガンダがロシア国内で繰り返されていることが影響しているのではないだろうか。

プーチン氏は開戦時の演説で、ウクライナが核武装しようとしていると主張し、先制攻撃を正当化した。

「今や彼ら(ウクライナ)は核兵器の保有を主張している。我々はそんなことを許すことはできない」

 2022年10月には、ロシアは国連などの場で、ウクライナが放射性物質をまき散らす「汚い爆弾」を使おうとしていると訴えた。当時のロシアのテレビニュースは「汚い爆弾が使われたらいかに危険か」という話題を繰り返し報じ、国民の恐怖をあおった。

 核保有についても汚い爆弾疑惑についても、ウクライナで査察を行っている国際原子力機関(IAEA)が明確に否定しており、悪質なフェイクだ。とはいえ、ロシアの世論に与えた影響は大きいだろう。

ロシアから見える世界 なぜプーチンを止められないのか (朝日新書)知られざるプーチンの世界観とロシア国内の認識とは―― プーチン大統領の出現は世界の様相を一変させた。ウクライナ侵攻、子どもの拉致と洗脳、核攻撃による脅し…世界の常識を覆し、蛮行を働くロシアの背景には何があるのか。ロシア国民、ロシア社会はなぜそれを許しているのか。その驚きの内情を解き明かす。
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駒木明義

駒木明義

朝日新聞論説委員=ロシア、国際関係。2005~08年、13~17年にモスクワ特派員。90年入社。和歌山支局、長野支局、政治部、国際報道部などで勤務。日本では主に外交政策などを取材してきました。 著書に「ロシアから見える世界 なぜプーチンを止められないのか」(朝日新書)、「安倍vs.プーチン 日ロ交渉はなぜ行き詰まったのか」(筑摩選書)。共著に「プーチンの実像」(朝日文庫)、「検証 日露首脳交渉」(岩波書店)。

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