「上司のパワハラや残業の多いブラック企業が問題視されていることから、なるべくそうした心配のない企業に就職してほしいという親心も分かりますが、親が20歳以上の子どもに代わって内定辞退を申し出ても正式な手続きとしては認められません」
とはいえ、企業が保護者に働きかける大きな理由はただ一つ、「保護者との相談による内定辞退が多いから」ということに尽きる。では、親を安心させるため、企業側はどのような「オヤカク」を講じているのか。
親向けに企業訪問会
会社案内(パンフレット・DVD)やIR情報を親宛てに送付したり、採用ページに「親向け」ページを開設したり、内々定受諾後に親宛てに自社製品や手書きの手紙を送付するケースもある。さらには、内定式の写真を親に送付したり、内定者懇親会に親にも出席してもらったり、親向けの企業訪問会を実施したりする企業もあるという。ちなみに、マイナビの昨年度の調査では、「内定式・入社式への招待」が17.3%、「保護者向けの資料の送付」は8.6%だった。
企業はどんな点に気を付ければいいのか。中村さんはこうアドバイスする。
「親は安定と安心を企業に求めています。例えばクローズドな経営戦略や財務関連の情報を部分的に公開するといった試みは、昨今の親のニーズに合致しそうです。また、企業のトップ自らが『大事なお子さんを私たちに任せてください。必ず一人前の社会人に育てます』という決意を見せることも大切です」
オヤカクは、内定辞退を防止したり、入社後のトラブルを回避したりするだけでなく離職率を下げることにもつながるという。大学卒業から3年以内の離職率は30%前後といわれる。そのことを考えると、親に良い会社であることを理解してもらうメリットは決して小さくない。学生が転職を考え始めたとき、親に引き留め役を担ってもらうことも期待できるからだ。
その上で中村さんは、「時には学生自身に親御さんを説得してもらうことも必要」と話す。内定を出した後、学生が「親が反対している」と悩んでいるのであれば、学生に「自分の意思はどうなのか」「入社後に何がしたいのか」と問いかけてみる。さらには、「厳しい就職試験を突破してきたのだから、親御さんに面接時のようにしっかりと自分の気持ちをぶつけてみたらいい」と諭してみることを企業側にすすめている。中村さんは言う。
「学生に『オヤカク(親を改革)』を促すことも時には必要ではないでしょうか」
(編集部・渡辺豪)
※AERA 2024年9月16日号より抜粋