日本が東南アジアの国々に後れをとる未来も

 実は、経済界では、そのことにかなり危機感が高まっているようだ。

 今年8月に公表された共同通信の主要企業111社へのアンケートでこんな結果が出ていた。

 「政府のエネルギー基本計画(今年は3年ごとの見直しの年にあたる)の見直しで、盛り込んでほしい事項は(複数回答)」という問いに対して、回答の1位が、「電源構成の再エネ比率拡大」59%、2位が「送配電網・蓄電設備の導入目標設定」30%だったのに対して、5位が「原発の新増設」17%、6位が「原発の建て替え」13%だった。

 つまり、原発よりも再エネを増やしてというのが経済界の明確な意図である。それも、電源構成の比率(現在の原発の30年度目標は20~22%)でも再エネが増えるような明確な目標を設定してくれということ、さらに、発電量のふれが大きい再エネを活用するためには、送電網を拡充して地域間の電力融通を強化するとともに蓄電設備を増強することをただ「やる」というのではなく、明確な「目標値」を設定せよということだ。

 政府が、「原発で」と言っているのでは話にならないという経済界の苛立ちが読み取れる。

 再エネを急いで拡大するには、太陽光と蓄電池による電源開発が最も簡単だ。しかし、今、太陽光に反対するキャンペーンが全国で拡大している。電力会社と経済産業省の原子力部局のタイアップによるものだ。マスコミも自民党議員もこれに乗って大騒ぎしている。

 こうしているうちに、日本は、AIデータセンター建設競争で東南アジアの国にも遅れてしまうだろう。

 先日、日本で最も信頼できる原発専門家の一人と話していると、彼は、上述のような日本の状況を指して、「世界中で、日本だけが、夢物語の世界に生きているようだ」と言っていた。

 さらに、もう一つ面白い指摘があった。東日本大震災以降20基以上の原発の廃炉が決まったが、一つの発電所の中で全ての原発が廃炉になったところは、東京電力の福島第一・第二原発以外にはないということだ。

 全ての原発の廃炉を決めると、その地域への補助金が止まる。それではその地域が生きていけないので、安全性や経済合理性などとは関係なく、政治的理由だけで、存続を言い続けなければならないからだ。

 稼働期間を40年から60年に延ばす審査について、審査期間が長引いたらその分運転期間も延ばして良いという規則変更も、原発を動かさず稼働延長の審査も全く進まないままの原発が40年を経過しても延々と補助金を流し続けようとする目的があったのは明らかだ。

 原電の敦賀原発でもこれと同じことが起きている。だから、絶対にダメだとわかっていても、補助金を流し続けるために再稼働申請を繰り返すわけだ。

 これは、誰も通らない過疎地の道路を延々とつくり続ける公共事業と同じではないか。

 地域住民の生活保障のために原発を稼働できなくても廃炉にせず、再稼働すると言い続ける。

 一方で、原発延命を優先して再エネの発電を抑制し、結果的にAIデータセンター建設競争やサプライチェーンの脱炭素化の波に乗り遅れて、産業競争力を一段と衰退させる。

 そんな愚行は、もういい加減やめるべき時だ。

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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