的外れな日本の姿勢

 日本は再エネ導入が主要国の中でも最も遅れているが、今後、国境を超えたバリューチェーンの中で生きるためには、これらテック企業の要請に応えて再エネ電力を確保することが非常に重要な課題となっている。

 それはかなり前から認識はされていたが、最近のAIブームは当初の想定外で、再エネ電源の奪い合いがすでに始まった。日本企業は、慌てて対策を取ろうとしている状況だ。

 そんな中で、岸田文雄首相は、「脱炭素のためには原発だ!」という掛け声をかけている。自民党総裁選を前に、河野太郎氏が脱原発から原発容認に舵を切り、同じく脱原発だった小泉進次郎氏も追随する姿勢だ。

 しかし、これは全くピントはずれである。なぜなら、まず、今ある原発の再稼働はそう簡単には進まない。規制委の審査が必要だし、それを通っても、地元の同意を取り付けるのは極めて困難だ。再稼働できるとしても、何年かかるかわからない。

 政府は、原発の新増設で対応などと寝ぼけたことを言っているが、新増設には15年から20年はかかるし、政府が期待をかけるSMR(小型モジュール炉)などはコスト的にペイしないことがはっきりしていて、電力会社でさえ、腰が引けている。

 こうした現状から見れば、最も現実的でしかも最もコスト的に安いのが再エネと蓄電池の組み合わせで安定的な脱炭素電源を確保する方策である。

 太陽光パネルのコストが劇的に低減したことは周知のことだが、現在起きているのは、蓄電池のコスト低減である。私も最新データを見て驚愕したが、蓄電池の低コスト化のスピードは想像を絶するもので、再エネ+蓄電池のコストは、原発と比べると、問題にならないくらい安くなった。最近出ている世界の各種調査機関による電源別のコスト比較では、原発が高すぎて話にならないので、比較表から原発が除かれるものまで出てきた。

 日本は、AIの世界で大きく遅れてしまった。もはや、欧米企業との競争だけでなく、アジア諸国とも競争しなければならない状況である。アジア諸国の売りは、豊富な水力発電や今後急拡大させる計画の再エネ電力である。それを武器にAIデータセンターの誘致に力を入れているのだ。

 今や、「脱炭素に原発で」というのでは、世界の笑い者になるだけだ。

 ここまで説明したことを理解すれば、この窮地を脱するためには、数年で再エネを急拡大する必要があるということはご理解いただけるだろう。しかし、政府の動きは鈍い。

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