リストバンドを見せて5合目ゲートを通過する登山者。弾丸登山者は8割減というが…=2024年7月1日

傷病者は「自力下山」が原則

 今年からは吉田ルート5合目入り口にゲートが設けられ、午後4時に閉じられるようになった。「弾丸登山者はだいぶ抑制され、渋滞の長さも短くなった」。だが、課題も残る。「ゲートが閉まる直前に滑り込むように入ってくる登山者がいる」からだ。

 危険だからといって、いまのところ弾丸登山者を排除することはできない。そのため、太田さんらはきめ細かな啓発活動を行っている。

「先ほど話したように落石や滑落、低体温症の危険性を説明するほか、ごみを捨てない、登山道で寝ない、寒いからといってたき火をしない、他の登山者が寝ている山小屋の近くでは静かにするように配慮する、などのルールを守ってくれるよう、お願いしています。そうすれば、最低限の安全は担保できる」

危険と隣り合わせの救助

 ちなみに、富士山では低体温症や高山病、落雷による外傷、骨折、ねんざなど、さまざまな傷病者が頻繁に発生する。

 山梨県側の富士山では、主に県と民間事業者が救助活動を実施しているが、重傷者や歩行困難者が発生した場合のみ、「クローラー」と呼ばれるブルドーザーのような重機の出動を要請できる。こうした救助は有料である。

「山梨県が設置する富士山登山者安全対策現地連絡本部と山小屋、われわれの団体のスタッフが連携して救助活動を行います。夜間でも雨でも、要救助者をクローラーで5合目まで下ろす。視界が5メートルもないなか、わずかに見える地形を頼りに運転する。そういうことが何回もあります」

 それ以外の傷病者は自力下山が原則で、ねんざで歩けるようなケースでは救助は行われず、「電話でアドバイスする」などの対応がとられる。

安全で「富士山の価値も上がる」

 根本的な問題は、富士登山に、いわゆる「登山」ではなく、「観光」としてやってくる人が多いことだろう。

「北アルプスに登る場合、事前に下調べをして、綿密な計画を立てると思います。同様の準備を富士山でもしてほしい。まず、自分に足りないのは何かを知ることから準備を始めることです。体力なのか、装備なのか。場合によってはガイドつきのツアーに参加するなど、しっかりした計画を立てていただきたいと思います」

 安全に、満足して登ってもらえれば、「富士登山は一生の思い出になります。そんな人たちが増えると『富士山の価値』も上がると思います」。

 そのために、課題を一つひとつ解決していきたいという。

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)

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