古来、信仰の対象として人々に崇められてきた富士山。2013年には世界文化遺産に登録された
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 富士山の登山シーズンも残り10日余り。5合目の吉田ルート(山梨県側)にゲートが新設され、昨年に比べて“弾丸登山”者はかなり減ったというが、後を絶たない。登山道で渋滞が発生する原因にもなる。専門家は警鐘を鳴らしている。

【ご来光や雲海も】富士山を登る人々【実際の写真】

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イライラが伝染して異様な雰囲気

 標高約3600メートル。夜明け前の暗がりにひしめく登山者。気温は真夏でも0度近くまで下がる日もある。酸素は下界よりも明らかに薄い。

「おーい、立ち止まるな。早く行け」「割り込むな」

 誰かが叫ぶように文句を言うと、イライラが伝染して異様な雰囲気が生まれる。暗さで不安が増し、ご来光に間に合わないのでは、という焦りが重なる。

 2013年の世界遺産登録の少し前、富士登山がブームになったころから、富士の登山道ではしばしば大渋滞が発生してきた。多くの人が山頂でのご来光の一瞬を目指す。そのため、山頂直下の吉田ルート9合目付近は渋滞が発生しやすい。

渋滞は「リスク」

 これまで600回以上富士山頂に立ったベテランの登山ガイド、太田安彦さんは、渋滞にいら立った登山者の間で怒号が飛び交う様子を目の当たりにしてきた。

「カオスというか、不穏な空気を感じるときもありました」

 実際に、渋滞はリスクだという。

「渋滞にはまって動かなくなると、体が冷えて具合が悪くなる人が出てくる。事故も起こりやすくなる」

 渋滞を避けようと、登山道を外れて登ると、不安定な岩を落下させ、他の登山者にけがをさせてしまうことがある。

最大のリスクは天候の急変

 こうした状況に太田さんは、危機感を覚えてきた。昨今、日本でもインバウンドによるオーバーツーリズムが指摘されているが、富士山ではそれ以前からオーバーツーリズムが続いていた。

 太田さんは環境保全や安全対策にも取り組もうと16年、一般社団法人「ヨシダトレイルクラブ(現・マウントフジトレイルクラブ)」を設立した。「ガイドとして、富士山のさまざまな課題を肌で感じてきた。それを解決する仕組みをつくりたかった」という。

 同法人は18年以降、山梨県から巡回指導業務を受託してきた。今夏は、毎日2~6人のスタッフが登山者に安全登山の啓発を行っている。山小屋と連携して救助活動の一翼も担っている。

 昨年の夏山シーズン中の登山者数(富士山8合目の全登山道の合計)は約22万1千人。ピーク時の約32万1千人(10年)と比べると、約3分の2に減少してはいるが、そのぶん、「弾丸登山」が目立つようになったという。

富士山吉田ルート5合目の登山口ゲートを通過した登山客に、注意を呼びかける指導員=2024年7月1日
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弾丸登山につきまとう重大なリスクとは