丸刈りは「教育上の効果には疑問の余地がある」
【松】野球部のケースは置いといて、まずは校則の場合を考えてみましょう。大前提として、丸刈りの問題は2段階にわけないと混乱してくるんです。
最初の段階は、丸刈りというルールそのものがどうなのかという問題。次の段階として、そのルールに違反したときにどう対応するのかという問題です。後者は対応によっては違法と見なされるケースが非常に多い気がします。実際、ある高校では、先生が女の子の髪の毛を切ってしまい、損害賠償が認められたケースがありました。
【中】これまで実際に丸刈りのルールについて裁判で争われたことはあるのでしょうか。
【松】公立の中学校では昔、何件かありました。というのも、1970年代から1980年代まで、校則に「男子生徒は丸刈り」と書かれている中学校はけっこうたくさんあったんです。私は静岡県浜松市で生まれ育ったのですが、私が中学生の頃も、浜松市内の中学の男子生徒は校則で全員、丸刈りだったんです。
そんな中、丸刈り訴訟の先駆けとなったのは、1985年の「熊本丸刈り訴訟」です。この裁判では最終的に「特異な髪型でもない」と、学校の主張が認められました。その頃、まだ丸刈りの学生はたくさんいましたからね。
ただ、判決文には「本件校則は、その教育上の効果については多分に疑問の余地があるというべきであるが、著しく不合理であることが明らかであると断ずることはできないから、被告校長が本件校則を制定公布したこと自体違法とは言えない」とされました。
裁判所は「ギリギリセーフ」としか言えない
【中】遠回しというか、まどろっこしいですね……。
【松】私はもう慣れましたけど、一般の人からしたらやはりそう思えますか。裁判所はいろいろな方面に配慮するというか、なかなか言い切らないものなんです。判決文を読む限り、裁判所も悩んだんだろうなと思いますね。
【中】これは学校側の負けとも言えるのではないですか。「教育上の効果については多分に疑問の余地がある」と言われているわけですから。これは、ほぼ「おかしい」と言っているのに等しいと思うのですが。
【松】一般論としてはそうなのでしょうが、ぎりぎりセーフにしておきましょう、ということなのだと思います。もし、従わなかったら退学処分になるとかまでは書かれていないので。そこまでやるとやり過ぎになりますが、強制性がないなら、違法とまではいいませんという判断だったのだと思います。
学校は教育現場なので「教育のため」という大義名分が成り立ちます。したがって、裁量権、つまり自分たちで決めることのできる範囲はかなり広く認められているものなんです。ルールそのものは、よっぽどひどい内容のものでない限り、裁判所はダメとは言わないものなんですよ。