マルチ商法にのめりこむ親のもとで育ち、経済的困窮や親子断絶といった凄絶な人生をおくることになった人たちを追う連載「マルチ2世~“商業カルト”で家庭崩壊~」。連載第3回では、子どもの学費を使い込んだ母を許せず、その死を今も悲しめないことに苦しむ2世を紹介する。
※マルチ商法の概要やその問題点については、第1回の<母親が“洗脳”され家庭崩壊した「マルチ2世」の悲劇 毎度の食卓で「黄や緑の錠剤」を飲まされ…>で詳報しています。
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隆さん(仮名/41歳・男性)の両親は、隆さんが10歳の時に離婚した。シングルマザーとなった母は、“生保レディ”とスナックの仕事を掛け持ちし、翌年に再婚。二人目の父は家庭に関心が薄く、だんだんと家にお金を入れなくなった。電気やガス、水道が止まるのは日常茶飯事だった。
「御殿に住んでいる」勧誘者を妄信
だが、家計が苦しくなったのは他にも大きな要因があった。母は離婚直後から、健康食品や化粧品を販売するマルチ企業・Y社に心酔していったのだ。
「これを飲むと、運動後の乳酸値が下がって筋肉痛にならないのよ」
「将来がんにならないために、体内の活性酸素を減らさないと」
母はそう言って、4人の子どもたち(隆さん、1歳下の弟、5歳下の弟、12歳下の妹)に毎日のようにY社のサプリを飲ませた。まだ幼かった妹と3番目の弟は、フルーツ味のラムネのような錠剤をおやつ代わりに食べていた。サプリのほかにも、シャンプー、ボディーソープ、化粧道具一式が入ったバッグなど、どれも高額なY社の製品が日に日に増えていき、家計を圧迫しているのは明らかだった。
母は知り合いにY社製品を売ったり、販売員になるよう誘ったり、マルチ会員としてのセールス・勧誘活動にも熱をあげていた。だが、成果に応じてY社から認定される“会員ランク”は、いつまでたっても下位のままだった。
明らかに収支はマイナスなのに、なぜ見切りをつけなかったのか。隆さんは、当時の母の様子をこう振り返る。
「母は、自分を勧誘したアップ(上位会員)を妄信していました。そのアップの女性は、元は社宅住まいの普通の主婦だったのに、Y社のビジネスで成功して、豪邸を建てたそうです。母はよく、『○○さんは私と同じで大学を出ていないのに、今は御殿に住んでいてすごい』と話していました。一度、『うちの家計はいつごろよくなるの?』と聞いてみたら、『○○さんによくしてもらっているから、いつかプラスになるはず』と。母の妄信は、現実逃避の一種だったのかもしれません」