那須正幹「ズッコケ三人組」を知っているか否かで年がバレる。絶対知っているのは80年代以降に小学生だった人。「何それ?」なのは50歳以上の熟年だ。第1作の『それいけズッコケ三人組』が出版されたのが1978年。以後26年も続き、映画にもテレビドラマにもアニメにもなった、これは児童文学界きっての人気シリーズだ。
 舞台は稲穂県ミドリ市(モデルは広島市)。物語は花山町の花山第二小学校6年1組の3人組を中心に展開する。ハチベエこと八谷良平は直情的な行動派。眼鏡をかけたハカセこと山中正太郎は読書好き。身体が大きいモーちゃんこと奥田三吉はおっとり型。このシリーズは登場人物が年を取らない「サザエさん型」で、2004年に50作目の『ズッコケ三人組の卒業式』で完結するまで彼らはずーっと6年生だったのだ。
 ところが、完結からそう時間がたたない05年に復活しちゃったんですね3人組が。40歳の『ズッコケ中年三人組』となって。ノリは児童文学なのに、下ネタは出てくるわ浮気はするわ。ビックリしたのでこのときも私は某誌に書評を書いたのだが、1回だけの特別編だったはずの「ズッコケ中年」も毎年1歳ずつ年齢を重ねて10作目まで続き、ハチベエたちが50歳になった11作目の本書『ズッコケ熟年三人組』でやっとほんとの完結編となったのだった。
 18年前に実家の八百屋をコンビニに改装したハチベエはいまや孫までいる市会議員だし、地元で社会科教師になったハカセも結婚、10年前にはバイト暮らしだったモーちゃんもいまは内装会社の専務である。
 みんなが熟年になったぶん物語に往年のパンチはなく、特に土砂災害を描いた後半はシリアスだ。それでも〈なにしろ熟年だからなあ〉というハカセのつぶやきに〈熟年て、何歳からなの〉と質問するモーちゃん、自分は〈どっちかっていうと、半熟だなあ〉と返すハチベエのやりとりは6年生のときのまま。那須先生、37年間、お疲れさまでした。

週刊朝日 2016年3月25日号