自分が「できたこと」をカウントする

藤野: 人って、自分ができたことはあんまりカウントしてないところがあります。できなかったことはめちゃくちゃカウントしていますが……。実は「できること」を数え上げてみたらけっこうあるんですけどね。

「自分らしく生きる」ことについて軽快なトークを展開した藤野智哉さんと桜林直子さん(photo ディスカヴァー編集部)

桜林:自分自身を把握するときに、私は「できることを書いてみましょう」と言うことがあります。その時、みんな書こうとするけれども、「これはみんなもできるしな」と言って書かなかったり、「これはできるけど、もっとできる人がいるしな」と言って書かなかったりするんですよ。「いいから書け」と。それこそ、「私は靴紐が結べます」「私は日本語でコミュニケーションが取れます」レベルでも全部書けと。じゃないと、全部「できない」にカウントしちゃうんですよね。

藤野:絞り出すぐらいでちょうどいいかもしれませんね。例えば「100個できることを書いてみましょう」といって、無理やりだんだんこじつけていくとですね、増えてくるんですよ。いま、ここの会場に話を聞きにきている人、ちゃんと座りながら聞いてる人も多いですよね。僕なんかこうやってもたれながら、ゆるゆると話しているのに。

桜林:どうしよう、2人ともゆるゆるだ(笑)。

藤野:なんか、こう姿勢を伸ばしてですね、座っている。それだけでもすごいことで。「そんなことみんなできる」と思いがちですが、いま、僕はできてないので。人にはできなくて自分ができていること、多分めちゃくちゃあると思うんですよ。

 それこそ、今日、会場にきているのは女性が多いと思うんですけど、みんな化粧するじゃないですか。とんでもないことだなと思うんですよ。

桜林:とんでもないことですよ。

藤野:毎朝、化粧している。十分できているんです。なんなんでしょうね、ノーカウントなんですよね、自分のできることって。

自分の中に鬼コーチがいる

桜林:自分のできることを書けないときは、「書こうと思ったけど書けなかったときのことを観察しよう」ってよく言うんです。何が邪魔して書けなかったのか。書こうと思ったら、さっきみたいに「そんなのみんなできる」「お前はできるとは言えない」みたいな声がする。それをね、よく「自分の中に“鬼コーチ”がいる」って私はたとえるんです。

「もっと頑張らないと」とか「お前は人の3倍頑張らないとダメだ」「そんなのできるとは言えない」などと、すっごい厳しい鬼コーチが自分の中にいる人が一定数いるんですよ。「できること」を書こうとすると、鬼コーチが邪魔してくるんです。

「自分らしく生きる」をテーマに語り合った藤野智哉さんと桜林直子さん(photo ディスカヴァー編集部)

藤野:昔の自分の作り上げた何かがずっと居座っていて、それが邪魔してくること、ありますよね。だから、最近X(旧Twitter)で、逆に「頭の中にギャルを1人置いておけ」みたいなこと言われてますよね。ギャルがなんでも許してくれたり、気分を上げる形で言ってくれる。別に頭の中に置くのはギャルじゃなくてもいいんですけどね。自分自身が自分にゆるい言葉をかけてあげられるのなら。

桜林:私の場合は、平野レミさん! 頭の中に平野レミさんがいてくれると、すごいいいですよ。

藤野:平野レミさんは、どんな感じで声をかけてくれるんですか?

桜林:私は突き詰めて考えがちだし、ちょっと深刻になりがちというか1回考え出すと止まらなかったりする部分があるんです。そんなときに、レミさんが「そんなこと、どうだっていいのよ〜」って言ってくれたりします(笑)。あんなおおらかな人います? 私の中には、あのおおらかさがなくて、なんでも言葉で考えてしまうところがあるから。

藤野:そうですね、言語が得意だと突き詰めて考えてしまったりする。それをばっさり「もう、どうだっていいのよ」って言ってくれる人ぐらいがちょうどいいのかもしれません。

桜林:感覚的な人が助かるんです。「レミさんが言ってるし、しょうがないか」みたいな(笑)。「ここはちょっとレミさんの言うことを聞いとくか」みたいな感じですね。

藤野:あるいは、それぞれの特徴に合わせて、自分は衝動的になりがちだから、ちょっと落ち着いた人を頭の中に置いておこうとか、そういうのでもいいでしょうし。「今日は誰を置こうか」を考えてもいいかも。

桜林:すっごい楽しいんですよ、このテーマ。雑談でもよく話すんですけど、以前にね、「ちびまる子ちゃんがいいです」って言ってた人がいて。私の中にはその考えがなかったから、「どうして?」と聞いたんです。

 休んでいたり、ダラダラしたりしていると、自分の中の鬼コーチに怒られるんですって。その人は普通にしていたらダラダラできないタイプだったんです。だから、まる子ちゃんの声で「ダラダラしなよ」って言ってくれると、なんか安心してゆっくり寝っ転がってダラダラ漫画読んだりできるって言っていました。自分の中にいてもらうといい人ってけっこう人によって違うものですね。

藤野智哉さん(photo 本人提供)

◎藤野智哉(ふじの・ともや)/1991年生まれ。精神科医、産業医、公認心理師。秋田大学医学部卒業。幼少期に罹患した川崎病が原因で、心臓に冠動脈瘤という障害が残り、現在も治療を続ける。学生時代から激しい運動を制限されるなどの葛藤と闘うなかで、医者の道を志す。精神鑑定などの司法精神医学分野にも興味をもち、現在は精神神経科勤務のかたわら、医療刑務所の医師としても勤務。障害とともに生きることで学んできた考え方と、精神科医としての知見を発信しており、メディアへの出演も多数。著書に3.5万部を突破した『「誰かのため」に生きすぎない』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『自分を幸せにする「いい加減」の処方せん』(ワニブックス)、『精神科医が教える 生きるのがラクになる脱力レッスン』(三笠書房)などがある。

桜林直子さん(photo 本人提供)

◎桜林直子(さくらばやし・なおこ)/1978年生まれ。東京都出身。洋菓子業界で12年の会社員を経て2011年に独立し、クッキー屋「SAC about cookies」を開店する。noteで発表したエッセイが注目を集め、『セブンルール』に出演。著書:『世界は夢組と叶え組でできている』(ダイヤモンド社)では、ユニークな視点から働き方・生き方についてのヒントを提案。現在は「雑談の人」という看板を掲げ、雑談サービス「サクちゃん聞いて」を主催。コラムニストのジェーン・スーさんとのポッドキャスト番組『となりの雑談』も好評配信中。

(ディスカヴァー編集部)

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