11人もの議員が出馬に意欲を示し「百家争鳴」の様相を呈している自民党総裁選。裏金問題などの不祥事で失墜した自民党のイメージを刷新できるかが鍵となりそうだが、はたしてそんな人物はいるのだろうか。8月1日に新著『自民党の大罪』(祥伝社新書)を出版した評論家・哲学者の適菜収さんは、今回の自民党総裁選をどう見ているのか取材した。
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お盆真っただ中の8月14日、岸田文雄首相は9月の自民党総裁選への不出馬を表明した。岸田政権発足から約3年。安倍政権、菅政権と続いた強権的な政権運営とは違い、岸田政権には「国民との対話」が期待され、就任当初は岸田首相もその重要性を語っていた。だが、結果として「聞こえのいいことを言っただけで、すべてうやむやになった」と適菜さんは振り返る。
「岸田首相は『国民との丁寧な対話』『聞く力』を打ち出して首相になったのに、結局、都合の悪いことは何も聞かずに隠蔽しただけでした。たとえば、森友・加計学園問題について『国民が納得するまで説明を続けることが大事だ』と言ったのに、それを聞いた安倍晋三元首相が激怒したら、わずか4日で再調査はしないと方針転換した。官房機密費の私的流用問題もうやむやにした。結局、安倍さんや麻生(太郎・自民党副総裁)さんにはまるで頭が上がらない首相だったわけです。やったことと言えば、アメリカへの隷属路線を継承したことくらい。トランプ前大統領が安倍さんに押しつけた防衛費の増額を国民の反対意見に耳を傾けずに実現させたのは、悪い意味での功績でしょう。麻生、安倍、菅(義偉)政権で続いた悪政や隠蔽体質をただ引き継いだ内閣でした」
岸田首相は総裁選不出馬の理由として「今回の総裁選では、自民党が変わる姿、新生自民党をしっかりと示すことが必要」と語ったが、この理由づけについてもあきれながらこう話す。
「岸田さんは会見で『自民党が変わることを示す最もわかりやすい最初の一歩は私が身を引くことだ』と言いましたが、それは後付けで、単に総裁選で勝つ見込みがないから降りただけのことです。追い詰められた結果として辞めたのに、まるで主体的に首相退任の道を選択したかのように胸を張った。最後までいつもの見えっ張りな姿でした」