(写真はイメージです/Getty Images)
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 昨今、タテ型のショート動画が流行している。スマホで手軽に視聴できるから、企業もこぞってタテ型動画をつかった広告宣伝を展開している。だが、結局視聴につながるのはストーリー性があるものだけで……果たして、タテ型動画で物語を表現することはできるのだろうか? 映像業界出身で、現在は小説家として物語を描く榎本憲男さんのコラムをお届けする。

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広告だとわかった途端にスキップ、の時代
オチまで見てもらえる広告をつくるには?

 ときどき、思いがけないところから相談を持ちかけられる。内容は、これからの時代を考えると、ストーリーの重要性が切実になるだろう、しかしストーリーをどのように構築したらいいのかがよくわからない、というものである。依頼主は、広告代理店やコンサルティング企業だ。これはインターネットが発達してきて、広告のスタイルが変化しつつあることによるものらしい。

 インターネットの普及によってWEB広告は大きなシェアを占めることになった。しかし、インターネット上では、センスのよいイメージを構築するだけでは、広告としての訴求力が怪しくなりつつある。たとえば、美しい海岸線を疾走する車の映像と人気のあるタレントのコンビネーションで作ったような広告は、ネットの世界ではある種の弱点を抱えることになった。それは、どんなに丹精込めて作ったビジュアルでも広告だとわかった途端にスキップされる可能性が高い。そこで、ストーリーの力を導入しようという発想が生まれる。美しい風景などは、一瞬で消費されてしまうが、ストーリーは最後(オチ)まで見ないとわからないのだから、というわけだ。

 映像とストーリーは別の技術である。映画では、役者に対する指示を監督が、光と映像はカメラマンが、ストーリーはシナリオライターが担当するけれど、CM業界にはストーリーに特化した専門職はない。映画やドラマがこのような協働体制を取ったのは、長時間にわたって受け手の注意を引きつけなければならないからだ。ところが、CMは短尺なのでストーリーなどを語っている暇はない、のっけから鮮やかな映像表現で視聴者を魅了していくほうが理にかなっていた。しかし、このような戦略の妥当性は、WEB広告が拡大すると同時にすこし揺らぎ始めているようなのだ。

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榎本憲男

榎本憲男

和歌山県出身。映画会社勤務の後、福島の帰還困難区域に経済自由圏を建設する近未来小説「エアー2.0」(小学館)でデビュー、大藪春彦賞候補となる。その後、エンタテインメントに現代の時事問題と哲学を加味した異色の小説を発表し続ける。「巡査長 真行寺弘道」シリーズ(中公文庫)や「DASPA吉良大介」シリーズ(小学館文庫)など。最新作の「サイケデリック・マウンテン」(早川書房)は、オール讀物(文藝春秋)が主催する第1回「ミステリー通書店員が選ぶ 大人の推理小説大賞」にノミネートされた。(写真:中尾勇太)

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