ところが、僕が受けた相談の内容は、CMを長尺にして物語を語って宣伝していくにはどうしたらいいか、というものではない。むしろ逆だ。TikTokなどのショートムービーを使って、それを楽しんでもらいつつ商品や企業をアピールできないかという相談である。相談が僕にきたのは、映画業界にいたことと、ストーリーを映像学校で教えていること、加えて小説家という現役のストーリーメーカーであるからだろう。だけど、僕は基本的には長編のストーリーテラーである。なので、「長編映画や長編小説などのような、長尺の物語技術は、ショートムービーや、それを連ねるシリーズものと共通しているものなのか」と同時に尋ねられたりもする。これは、「お前に相談して大丈夫なのか」という風にも聞こえなくもない。内心笑ってしまうのだが、それを顔に出さずに答えを言えば、イエスである。ショートムービーであろうが、『タイタニック』のような長編映画であろうが、ストーリーの原理は同じだ。

こぞって縦型映像の可能性を探るCM業界

 と同時に、僕が戸惑いを感じるのは、続いて投げかけられるもうひとつの質問、「映像が縦になってもストーリーの基本構造は変わらないのか」だ。これはショートムービーをスマホで鑑賞する機会がだんぜん増えたので、CMなども縦型で作っていきたいという方針から発せられた質問だ。そして、「いまCM界はこぞって縦型映像の可能性を探っているんですよ」と力説されたりもする。これに対する答えもとりあえずイエスだ。縦型映像専門のストーリーメーカーなどは出てこないだろう。やはり使う技術は同じだから。さらに、「ショートムービーを連発していけば、長編映画のようなものに膨らませることも可能ですよ」と大風呂敷を広げたりもするのだが、「いまCM界はこぞって縦型映像の可能性を探っている」という文句は別の意味で気になる。

 縦型映像の需要増の原因は、人間の感性が縦型へと変容したからではない。スマホに電話機能がついている限り、耳にスピーカー部分を口元にマイクを持っていかざるを得ないので、スマホの形状はどうしても縦型になり、だから縦型映像が求められている。――これが主たる理由だ。

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「見る」という行為は能動的か、受動的か?