2024年、夏。今年も甲子園で高校球児たちの熱戦が繰り広げられている。第106回全国高校野球選手権大会の名シーン、名勝負を振り返る。今回は、8月19日の大社(島根)ー神村学園(鹿児島)について。
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大社の石飛文太監督が心の内を明かす。
「難しかったと思うんですが……」
早稲田実との3回戦は、甲子園史に残る死闘だった。延長タイブレークを制して勝ち上がった大社は、トーナメントにおいて大きなアドバンテージとなる「勢い」を手にした。一方で、壮絶なゲームから日が浅い。再び心と体を奮い立たせ、「リセット」して挑む準々決勝の入りには、確かに「難しさ」があった。
1回表、大社の先発マウンドに上がった背番号10の岸恒介が初球を投じる。ストライクの判定に、大社の大応援団が陣取る一塁側アルプスが沸く。先頭打者を見逃し三振に仕留めると、後押しする声援のボルテージは一気に高まった。ファーストゴロにショートゴロ。岸が立ち上がりを3者凡退に抑えると、甲子園球場はもう、大社の色に染まるようだった。
押し寄せる大応援は、直後の攻撃でさらにヒートアップする。先頭打者である藤原佑の四球と二塁盗塁を起点に1死三塁とした大社は、主将で3番を担う石原勇翔のショートゴロの間に先取点。ノーヒットで1点だ。藤原は言う。
「二塁盗塁は、基本的にノーサイン。自分が出塁して走ったらチームが盛り上がると思ったので、気持ちを強く持っていきました」