続く4番の高梨壱盛は左中間へ二塁打。得点にこそ結びつかなかったが、「難しかった」入りの不安を払拭する攻めの姿勢を見せる。一塁側アルプスに広がる「攻め」の声は一層、強度を上げた。神村学園のエースである今村拓未が、初回のマウンドを振り返る。
「ファウルを打ったり、ボール球を選んだり、その一球一球に相手の歓声が凄くて……。その『圧』をムチャクチャ感じました」
大社の応援は想定していた。ゆえに「落ち着いて入ろう」。だが、想像以上の熱量に「気持ちで相手に負けてしまった」と今村は肩を押す。味方の打線が逆境を跳ね返して逆転するも、自らの野選と失策などで同点とされた4回途中に降板。
「気持ちが前を向いていなかった。ピッチングを立て直そうとしたんですが、修正できなかった」
最後は、地力に勝る神村学園に得点を重ねられて大社の夏は終わった。1917年(大正6年)以来、実に107年ぶりとなる4強進出は逃したが、石飛監督は大会を振り返ってこう言うのだ。
「(3回戦までは)どういう状況でも勝ち切れたのは執念と仲間との絆。1点を取り切る野球。1点にこだわる野球をずっとやってきた」
そして、42歳の指揮官は93年ぶりに辿り着いた準々決勝に視線を戻してこう言った。
「初回の攻撃がウチのすべて」
この夏を彩った球場中を巻き込む大社の強さが、そこにはあった。
(佐々木 亨)
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