この記事の写真をすべて見る落語家・春風亭一之輔さんが連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今回のお題は「パニック」。
ここのところNHKを観ていると「南海トラフ地震に注意しましょう」みたいなテロップがずーっと出ていた。
日頃からの備えを疎かにしがちな人間にはありがたいっちゃありがたいが、正直邪魔だ。「虎に翼」を観てる時くらいそんなことは忘れさせてほしい。航一さんと寅子のぎこちないキスシーンにもテロップが出ていて、「グズグズしてんじゃないよ! 早くしちゃわないと(キスを)地震来るぞ!!」とおじさんはヤキモキしてしまいました。
「正常性バイアス」という言葉がある。非常事態にあっても、「大したことはないだろう」「自分だけは大丈夫だろう」と、事態を過小評価して都合よく考えてしまう認知特性。
自慢じゃないが私はそれがかなり強い(ホントに自慢にならない)。
落語のネタおろしの場合。初演の前日までまるで動かなかったり、新作をやらねばならない会でも高座に上がる直前までオチを考えてたり……その時点ではかなりパニクってはいるのだが、そのちょっと前までは「まぁなんとかなるだろう」と思っていたりする。
口では「あー、大変だ!」「もーやりたくない!」「わー、もうあと少ししかない!」とか言ってるくせに、「虎に翼」の再放送を観ている。「なにかインスパイアされるモノがあるかもしれないからなー」なんて言い訳をしながら。そして、それを見て家族が呆れている。でも実際、その場のお客さんのテンションに助けられてなんとかなってしまう場合が多い。いやいや、これはホントによろしくない。
ということで、みんな、私を甘やかさないでほしい。
この夏、独演会と家族旅行をひっくるめて沖縄に行った。やっぱり暑かった。沖縄の日差しと家族は私を甘やかさないのだ。
というのも、私が独演会で奮闘しているさなか、私以外の家族は観光してきたらしい(ひめゆりの塔に行ってきたという。なかなか感心なことだ)。