そんな家族と合流した翌日。ホテルの近くにビーチがあったのだが「へい! 海に行こうぜ!」と誘っても誰も反応してくれない。「よう! せっかくの沖縄だぜ!」「せい! 波間が、砂浜が、俺たちをよんでるぜ!」と煽っても「日焼けする」「めんどくさい」「ねむい」などの理由をつけてゴロゴロしている。どういうことだ? 沖縄だよ?

「アイス買ってやるから海に行こう!!」

 即答で「いらんし」と言われた。

 5年前なら子供たちは「行くーーー!」と飛んできたはずなのに、もうアイスクリームでは心は動かされないようだ。いやはや、成長というものは素晴らしい。

 しばらく私が駄々をこねていると大学1年の長男が「じゃあ、行くよ」とのってきた。明らかに「しかたねぇから、行ってやるよ」のニュアンスの強い「じゃあ、行くよ」だったが、何はともあれ2人でビーチに繰り出す。

 波がまるでない、穏やかすぎる。そして水深が深いところでも胸までしかないプールのようなプライベートビーチ。泳げない私には最高だ。

 ただ46歳の父と19歳の息子では盛り上がらないことはなはだしい。終始無言で海水に浸かるだけの、まるで「大仰な消毒槽」のようだ。

 手持ち無沙汰になり、とりあえず話しかけてはみる。

「深いとこ、行ってみるか」

「ああ」

「そんなに深くないな」

「うん」

「波がないとおもしろくないな」

「そうだね」

「上がろうか」

「上がろう」

 行間を読もうとしても、そこにも何もないスカスカなやりとり。まあ年頃の息子と親の会話などこんなもんだろう。

「イタタッ!!」

 砂地を歩いていたと思ったら、急に足元が岩場になっていた。裸眼だったので水中の視界は不明瞭。よーく気をつけながら歩いていると……一歩踏み出そうと足を出したその下に、黒っぽい、楕円形のなにかが見えた。

(なんだ? ナマコみたいだな……)

(ナマコかな?……このままいくと踏んじゃうな)

(ナマコって踏むと何か身体から吐き出すって聞いたことがあるぞ)

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ま、大丈夫、ではなかった