(マズいな、このままいくと踏んじゃうな。大丈夫かな)
(あー、これはもう手遅れだ! こりぁ絶対踏む……)
(しょうがない。踏んじゃおう。どう見てもナマコだけど、まさか命に関わるようなモノは吐き出すまい。ま、大丈夫だろう……)
この間、わずか1、2秒。
正常性バイアス in OKINAWA。
見事にそれを踏んだ。空気抜けかけのゴムボールを踏んづけたような生ぬるい感触。とたんに……。
ぶーーーーーーーーーーっ!!!!
「キャーーーーー!!!」
「どした? お父さん!?」
「ナ、マ、コ、み、た、い、な、や、つ、ふ、ん、だ、ら、なんか出てきたーーーーー!!!」
ナマコらしきモノの中から、何やら白い糸のようなモノがいく筋も噴射された。ゴムホースの口を押さえて水を撒くような勢い。それが私の右足を包み込むようにまとわりついてきた。
「どわーーーーー!!! 足、足、足っ!!」
「うわ! やばっ! きもっ!」
ある程度想定していたとは言いながら、狼狽える私。量が想像を超えてきた。
「とりあえず、り、陸に上がろう……ダメだ、こりゃ」
リアルに「ダメだ、こりゃ」と口をついて出るほどのナマコ汁(正式名称はあると思うが)。
これが水に流してもなかなかとれない。足についたナマコ汁はゴムのようにへばりついて、爪で引っ掻くようにしないととれないくらいの粘着力。「うわー、うわー、気持ちわりーー!」と、ガリガリガリガリガリガリ……爪でこそぎ落としていると、倅が横で笑っている。なんて情けない。片足がナマコ人間になってしまった父を見た息子が嘲笑している。
「笑うんじゃないよ! もう!」
「ははは」
「『ははは』じゃねえんだよ! お父さんが半身ナマコになりかけているっていうのに!」
「たいへんですね」
「たいへんだよ! もう!」
「いつもラジオ聴いてますよ」
なにがラジオだよ! バカにしやがって………ラジオ?
「プライベートですか? 一之輔さん?」